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デジタル庁が目玉政策の1つに据える、法人や国土など公的データの整備事業。先行したはずの「事業所」のデータ整備が突然、中断に追い込まれた。公募していた入札途中の案件は取りやめ、既に開発したシステムは当面凍結される。原因は、行政分野ごとに「事業所」の概念が多様すぎると判明したからだ。分野を超えて事業所データを統合し多目的に使う政府構想は、簡単には実現できないと判断した。

 「いったい何が起こった」─。

 2022年3月下旬、デジタル庁からのシステム開発受託を狙っていたITベンダー各社は騒然となった。デジタル庁が存在意義をかけた目玉政策に関わるシステム調達案件の取りやめが、官報や電子調達システムで相次いで公表されたからだ。

 注力してきた目玉政策とは、住民や法人、国土の情報など日本の根幹をなす公的基礎情報を多目的に使えるようデータベース化する「ベース・レジストリ」の整備である。その中でも企業や団体などが持つ多様な「事業所」の情報を統合した事業所ベース・レジストリを整備する事業が中断された。

 事業所データの整備は住所データの標準化などと並んでデジタル庁でも検討が最も進んでおり、パイロットシステムを構築・運用して整備手法を検証する段階に入ろうとしていた。デジタル庁発足から間もない2021年10月に第1弾の調達を公告し、2022年2月にかけて合計4件のシステム調達案件で参入ベンダーを募集していた。

図 デジタル庁が中断した「事業所ベース・レジストリの構築・検証パイロット事業」の概要
図 デジタル庁が中断した「事業所ベース・レジストリの構築・検証パイロット事業」の概要
一部システムの調達後に取りやめを判断
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 しかし2022年3月25日から4月中旬にかけて、このうち3件を相次いで中止した。残る1件は他に先行して2021年12月末にはベンダー選定を終え、2022年5月末の納品に向けて開発も終盤にさしかかっていた。「事業者との関係を考慮し、減額の契約変更まではできない」(デジタル庁の担当参事官補佐)と判断し、そのまま契約を継続した。

 しかし納入されても使い道がないため、システムは当面はお蔵入りとなる。発注代金は825万円(税込み)である。残る3つの案件にはより予算規模が大きい発注もあったが、取りやめたため政府側に金銭的な被害は生じていない。ただし入札に参加したベンダーによる提案書の作成は徒労となった。

 デジタル庁が事業所データ整備を先行させたのは、新型コロナウイルス禍で課題となった事業者への給付金に活用することが狙いの1つにあったからだ。実際にパイロット事業では時短営業の協力金支払いが遅延した反省を踏まえて、飲食店の情報を早期に整備する対象の1つにしている。

様々な行政情報からデータを統合

 4件の調達案件は、大きく2つのパイロット用システムに分かれる。

 第1は、整理済みのデータを基に、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)やWeb画面を通じて、事業所データを企業や行政機関に出力する公開サイトである。一般競争入札の結果、2021年12月に中堅ITベンダーのユー・エス・イー(USE)が落札し、2022年1月から開発に着手した。2022年3月いっぱいでシステムはほぼ完成していた。2022年5月末の納品に向けて、2022年4月下旬時点では最終テスト運用段階にある。

 第2は、様々な情報源から事業所データを統合するシステムの構築である。省庁や自治体が持つ様々なデータから重複や矛盾を取り除き、一貫性があるデータに加工して出力する。4件の案件のうちで技術的な難度は高く、予算規模も大きいとみられる。デジタル庁は事業者を選定する2022年3月30日を目前に調達を中断した。

 調達にかけた他の2案件は公開サイトを運用する業務と、開発ベンダーとデジタル庁の間に入ってこれら3案件の工程管理を支援する業務である。これらも入札が始まっていたが、2022年4月中旬までに中断している。

「実現可能性がないと判断した」

 牧島かれんデジタル相は事業所データの整備事業を中断した理由を記者会見で問われ、「委託調査事業などで当初想定したユースケースが実務レベルでは成立し得ないことが2021年11月に判明した」としたうえで、その後の経緯を次のように説明した。2021年11月からは、有識者会合からの提言を参考に、より上位である法人や事業主のデータ整備を優先する方針変更を検討した。しかし検討を進めるとこれらのデータ整備よりもさらに優先すべき課題があることが判明した。より根本的な検討が必要となり、運用コストが発生するシステム調達は中断すべきだと決断したという。