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 NTTドコモの電子決済サービス「ドコモ口座」を巡る不正利用の全容が分かった。犯人はドコモ口座の開設や口座振替の認証に関わる甘さを突いて、不正出金を繰り返していた。被害はドコモ以外の決済事業者にも広がっており、キャッシュレス決済市場の拡大に冷や水を浴びせかねない。業界を挙げた対策が求められている。

 「不正利用の被害者の方々におわび申し上げると共に、お客様のほか、多数の皆様にご心配、ご迷惑をおかけしたことを深くおわびする」。2020年9月10日、ドコモの丸山誠治副社長は都内で開いた緊急記者会見でこう謝罪した。

NTTドコモ幹部がドコモ口座の不正利用に関して謝罪した(中央がドコモの丸山誠治副社長)
NTTドコモ幹部がドコモ口座の不正利用に関して謝罪した(中央がドコモの丸山誠治副社長)
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 不正はドコモが手掛ける電子決済サービスのドコモ口座で起きた。犯人は被害者になりすまし、ドコモ口座を開設。不正に入手した口座情報を使って、ドコモ口座と被害者の銀行口座をひも付け、銀行口座からドコモ口座に資金を移していた。最終的にキャッシュレス決済の「d払い」でたばこや家電製品などを購入し、転売していたとみられる。

 ドコモは9月5日に七十七銀行、8日に中国銀行と大垣共立銀行について、ドコモ口座と銀行口座の新規の連携を停止した。翌9日に対象銀行はゆうちょ銀行など計18行に拡大し、10日には全35行でドコモ口座と銀行口座の新規連携を停止する事態に追い込まれた。一部の銀行では、銀行口座からドコモ口座へのチャージ(入金)もできない状況だ。

ドコモ口座の不正利用を巡る主な経緯
時期概要
2019年5月りそな銀行と埼玉りそな銀行でドコモ口座への不正入金が発生
9月NTTドコモの通信回線契約者以外もドコモ口座の開設が可能に(キャリアフリー化)
10 月キャリアフリー化後で初めての不正利用が発生
2020年9月5日七十七銀行でドコモ口座への新規口座登録を停止
9月8日中国銀行と大垣共立銀行で新規口座登録を停止
9月9日新規口座登録の停止がゆうちょ銀行など18行に拡大
9月10日ドコモ口座とつながる全35行で新規口座登録を停止
9月12日ドコモ口座の不正利用に関する問い合わせ窓口を設置
9月末(予定)ドコモ回線の非契約者によるドコモ口座について、ドコモ口座開設時の「eKYC(electronic Know Your Customer)」を導入

 ドコモによると、9月18日午前0時時点(銀行の申告ベース)で被害件数は11行・162件。被害総額は2764万円に上り、被害額の約6割をゆうちょ銀行が占める。丸山副社長は被害者への補償について「銀行と連携のうえ、全額を補償するよう真摯に対応したい」と話す。