全3493文字
PR

新型コロナウイルスの安否確認システムで2021年1月に障害が発生した。安否確認を受けるべきだった療養者912人に架電されない事態に見舞われた。原因は、架電件数の増加に備えて用意していたアップデートの不具合。障害対応のまずさもあり、運用体制の大幅な見直しを余儀なくされた。新型コロナで人命を預かる自治体やベンダーにとって対岸の火事ではない。

 「人の命に関わるシステム。二度と障害を起こしてはいけないし、仮に起きても即座に対応できるようにしなければならない」。神奈川県健康医療局医療危機対策本部室の鈴木智明医療提供情報担当課長は悔しさをにじませながら、こう反省の弁を述べる。

 神奈川県は2020年12月24日、新型コロナウイルス感染者の安否を確認するため、LINEが提供するAI(人工知能)自動応答電話システム「LINE AiCall」を導入した。12月11日に県内の宿泊療養施設で基礎疾患のない50代の患者が亡くなったことを受け、県職員の負担増を抑えつつ、療養者と医師・医療機関を適切につなぐ仕組みとして全国に先駆けて取り入れた。

 だが、2021年1月26日にLINE AiCallで障害が発生。自動応答電話で安否確認を受けるべき療養者912人に架電されない事態に見舞われた。前日に実施した作業で不具合が混入してしまったのが原因だ。新型コロナの自宅療養者は病状が瞬く間に悪化し、死に至ることもある。神奈川県によると、幸いにも障害の発生中に急変した療養者などはいなかったが、障害対応や運用体制の面でも反省すべき点が多かった。

図 神奈川県の新型コロナ安否確認システムで障害が発生した経緯
図 神奈川県の新型コロナ安否確認システムで障害が発生した経緯
架電件数増加に対応するために用意したアップデートに不具合が含まれていた
[画像のクリックで拡大表示]

職員の勘違いで障害対応が後手に

 LINE AiCallは「LINEアカウントに未登録」「LINEでの健康状態確認に回答がない」などの理由で安否や症状を確認できない療養者に対し、システムが自動的に電話をかけて体調を確認するものだ。新型コロナの陽性発覚から2週間ほどの療養期間中、毎日午前8時15分と午後3時15分に自動架電する。

 神奈川県が障害の発生を認知したのは1月26日午前10時50分。LINEの担当者から、神奈川県で同システムの企画などを担当する医療危機対策本部室医療提供情報グループの諸星智哉主事に「Facebook Messenger」を通じて第1報が入った。「今日架電対象の人に電話がかかっていない」というものだった。医療提供情報グループはその場でLINE側に原因の調査と復旧を依頼し、LINE AiCallの運用を担う地域療養支援班に状況を確認した。

 ところが、地域療養支援班からは「自動応答電話はかかっていたようだ」といった返答があり、事態の把握に時間を要する結果となった。地域療養支援班が勘違いした理由はこうだ。LINE AiCallでは受電した療養者がAIの安否確認に対して音声で病状を答える形をとっていた。およそ15~30分おきに複数回かける架電に対し「療養者から応答がなかった」「(人間の担当者に)連絡したいと答えた」「療養者の音声をAIがうまく認識できなかった」ような場合には、そのリストに基づいて地域療養支援班や保健所職員が直接電話して確認する運用になっている。

 1月26日は午前8時15分の架電が正常に動作しなかったため、神奈川県が療養者情報の管理システムとして活用しているアルムの「Team」は前日午後3時15分に実施した架電の結果に基づいて最新の不通者リストを出力していた。地域療養支援班にとってはリストが平常通り出力されて有人架電も実施していたため、LINE AiCallが正常に動作しているように見えていたのだ。諸星主事は「運用フロー自体はそのまま回っていたため、正確な事態の把握が遅れてしまった」と振り返る。

 その後、神奈川県は1月26日午後0時50分までにLINE AiCallで架電できていなかった912人を特定した。400人は前日の不通者リストと重複していて有人架電を実施済み。残りの512人のうち入院待ちの42人と、神奈川県が導入する入院優先度判断スコアが高い療養者95人の計137人をハイリスク者と認定し、地域療養支援班が有人で架電して同日午後2時30分までに安否の確認を終えた。