「アバター(分身)ロボット」を社会インフラにする新会社を設立した。多くのアバターロボを世界中に置き、利用者が遠隔操作できるようにする。アバターロボにより人が時間や距離を超えて「移動」できる環境づくりを目指す。
ANAホールディングス(ANAHD)は、遠隔操作のアバター(分身)ロボットを社会インフラにすることを目指すavatarin(アバターイン)を設立した。2020年4月のことで、ANAHD発の、初めてのスタートアップ企業という。アバター事業をけん引してきた深堀昂が全日本空輸(ANA)を退職してCEO(最高経営責任者)に就いた。
深堀が考案したアバターのコンセプトは、遠隔地のロボットに利用者がインターネット経由でアクセスして操作し、あたかもそこにいるかのような体験ができるというものだ。今後、アバターロボを世界のいろいろな場所に設置し、利用者が訪れたい場所のアバターロボに接続できるようにする。
目標とする「アバターロボの社会インフラ化」とは時間や距離、文化、身体などの制約を超え、世界の人々と「現地」でコミュニケーションできるようにすることだ。アバターロボを通じた出会いは、人をそこへ実際に行ってみたいと思わせる。ひいては航空移動需要の喚起にもつながると想定する。
いくつもの新事業を立ち上げる
深堀がANAに入社したのは2008年のことだ。総合職技術職として、航空機の運航を技術面から支援する業務などを担当した。その合間に、新しいことをやりたくて、休日などを使って講演会やセミナーに参加し、思い付いたアイデアを社内に持ち込んだ。新規事業やビジネスモデルを考えるのが好きだったという。
その成果は次々と結実する。まずは、社会問題の解決を目指す事業を立ち上げた社会起業家を航空運賃面で支援する貢献活動を企画し、上司や役員を説得して実現にこぎ着けた。「BLUE Wingプログラム」との名称で2014年にスタートし、社内外で評価を得る。これが弾みとなった。
2016年には「挑戦する人の翼になる」をコンセプトに航空業界初のクラウドファンディングプラットフォーム「WonderFLY」を発案した。アバターロボ開発を競う総額1000万ドルの国際賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」も2018年に実現させた。この賞金レースは、非営利組織の米Xプライズ財団の主催で、ANAが日本で初めて協賛したという。
2018年3月にはANAHDが「ANA AVATAR VISION」を打ち出す。「アバターの基礎技術を集約・発展させ、人をつなぎ、世界をより良くすべくイノベーションを加速させる」とのコンセプトを表明した。その後、深堀はこのアバタービジョンを具体化するために尽力した。
2019年10月には、IT・エレクトロニクス分野の国際展示会CEATECで自社開発のアバターロボnewme(ニューミー)のプロトタイプなどを展示し、CEATEC AWARDの特別賞を受賞する。newmeは、操作する人の顔がモニターに映る自走式ロボットだ。