DX(デジタル変革)支援事業を手掛けるモンスターラボホールディングス。ウクライナやパレスチナ自治区にも拠点を持つ隠れたグローバル企業だ。音楽配信から事業モデルを転換した起業家は世界を相手にビジネスに挑む。
2022年2月24日、モンスターラボホールディングスに激震が走った。「突然、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、キーウ(キエフ)で働いていた従業員8人をリビウを中心としたウクライナ西部へ避難させた。まさかとは思ったが、1月末に立てていたBCP(事業継続計画)が役に立った」。CEO(最高経営責任者)の鮄川宏樹は緊迫した当時の状況をそう振り返る。
モンスターラボはDX(デジタル変革)を支援するコンサルティングやUX(ユーザーエクスペリエンス)デザイン、システムのアジャイル開発などを手掛けている。顧客企業のデジタルサービスやアプリなどの開発プロジェクトに企画・要件定義から参画し、一貫して支援するのが特徴で、日本郵便や毎日放送、LIXIL、クボタなどのプロジェクトで実績を積み上げている。
実は、モンスターラボは隠れたグローバル企業だ。総従業員数は約1300人。拠点は中国やシンガポール、米国、デンマーク、サウジアラビア、ウクライナなど20カ国に及び、パレスチナ自治区ガザにも開発チームを持つ。しかも各拠点は現地スタッフが自ら事業を運営している。「日本人がわざわざ出向いても、現地で何の価値も提供できない」と鮄川は語る。
「デジタル関連のコンサルティングやシステム開発の分野で、2030年に世界トップ10に入る企業になる」。大きな目標を達成するために世界各地に拠点を分散する戦略を採る。限られた地域で大量採用するより、優れた技術者やデザイナーらを採用しやすいからだ。アジャイル開発を進める上で、開発拠点は顧客と同じタイムゾーンのほうがよいという事情もある。ウクライナも欧州の顧客向けの開発拠点だ。
音楽配信事業で起業したが
学生時代の鮄川は、教師を志していた。だが、社会を何も知らずに教師になることに疑問を感じ、卒業時にはコンサルタントの道を選んだ。ちょうどその頃インターネットやEC(電子商取引)が興隆しつつあり、テクノロジーで世の中を変えてみたいという夢も芽生えた。その後、転職した企業で中国での事業に携わり、「世界の技術者と一緒に仕事をすることに大きな可能性を感じた」という。
そして2006年、起業に踏み切る。以前から可能性を探っていた音楽配信事業を自ら立ち上げた。だが事業は軌道に乗らず、音楽配信を継続する傍らシステムの受託開発も手掛けた。そして2013年に転機が訪れる。技術者不足が深刻化する中で、顧客のデジタル化支援とグローバル化に活路を見いだしたのだ。鮄川はまず、縁がある中国などアジアから拠点づくりを始め、中東にも拠点を広げた。