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与信サービスに必要な機能を部品として提供する「CaaS」の開発を進める。少額ローンサービス「CREZIT」で蓄積したデータとノウハウを生かす。新しい金融ビジネスを後押しし、個人が最適な信用を得られる未来を目指す。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 「考えるだけで嫌になるほど難しい。そんな金融サービス参入の壁を取り払いたい」。2021年秋の提供に向け「CaaS(Credit as a Service)」の開発を進めるCrezitの社長、矢部寿明はこう話す。ライセンス取得にかかる必須要件の多さ、法律とガイドラインにのっとった運用の設計、業界特有の開発要件を満たすためのシステム開発コスト。こうした参入へのハードルを引き下げるサービスがCaaSだ。矢部は2019年にCrezitを創業して以来、CaaSの提供を目指してきた。

 CaaSとは、与信サービスを作る際に必要となる契約や保証、決済、金融機関接続や回収、運用オペレーションに至るまでの機能をあらかじめ部品として用意し、クラウドで提供するBtoBサービスだ。金融事業を新たに立ち上げるコストとリスクを下げ、これまで金融サービスを始めるのが難しかった小規模なプレーヤーの参入を後押しする。

 矢部は「今こそ新しい与信サービスが生まれるタイミングだ」と話す。理由は2つある。1つは労働形態の変化にともなう新たな需要の発生だ。フリーランスの労働人口が増え、雇用形態は多様化している。終身雇用を前提に設計された与信サービスでは適切な判断ができない。多様な働き方に合わせた新たな与信サービスが求められる。もう1つは、LINEやメルカリといったテクノロジー企業の台頭だ。これらの企業は従来の金融機関にはない消費者データを持ち、新しい切り口の与信サービスを生む可能性を秘める。

 新しいサービスとは例えばフリーランス向けローン事業だ。クラウドソーシングサイトの運営企業が受発注データや仕事への評価などから貸し付けのリスクを判断する。不動産ポータルサイトが利用実績や引っ越し履歴などを基に、引っ越し費用の分割払いサービスを提供することもできそうだ。与信の仕組みを使ったサービスの利用シーンは多岐にわたると矢部は考える。

終着点はコンシューマー

 新たな与信サービスに思いをはせる矢部だが、Crezitを創業して最初に手掛けたのはコンシューマー向け少額ローンサービス「CREZIT」だった。CREZITを始めたきっかけは、自身の経験にあった。矢部は大学時代、インターンシップで訪れたアフリカでの生活に日本のクレジットカードを使い、その支払いを滞納したことがある。就職して一定の収入を得るようになってからも、一向にクレジットカードの審査に通らない。自分の信用情報はどうなっているのか、実態を評価されていないのではないか。ひとたび傷が付くと回復が難しい与信制度の現状に課題を感じた。「消費者の活動データを与信に使えれば、自分のように適切な金融サービスを受けられていない人に機会を提供できる」。矢部はそう考えた。

 CREZITによる累計6000万円の貸し付けを通じて、消費者の行動データを集めた。2021年4月にCREZITの新規利用を停止し、本格的にCaaSに舵を切る。現在、CaaSの導入について10社以上と交渉中だ。「Crezitが単体で直接サービスを提供するより、さまざまなプレーヤーと連携するBtoBtoCのモデルを作った方が結果的により多くの人に届く」と矢部は話す。