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1999年にNECで超電導回路を使った世界初の量子ビットを開発した。現在は理化学研究所で国産初の量子コンピューター開発を指揮する。異分野の研究者の交わりから新たな成果を生む環境づくりにも注力する。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 「この分野(量子技術)で最初期から活躍している研究者たちを集めることができた。皆が一丸となって研究できる体制が整ったと思う」。

 中村泰信は2021年4月、理化学研究所内に発足した量子コンピュータ研究センター(RQC)の初代センター長に就任した。現在の研究体制について尋ねると、そう静かに手応えを語った。

 中村が率いるRQCは2022年度中に64個の量子ビットを持つゲート型量子コンピューターを稼働させる予定だ。国産初となる見通しで、中村によれば国内外の研究者などにもオンラインでの公開を予定する。量子ビットの実装に用いるのは、中村が自らも長く研究に携わってきた超電導方式だ。

多角的な研究体制に強み

 ただし超電導方式の量子コンピューター開発は、RQCでは主要な研究の1つに過ぎない。量子ビットの動作原理については超電導方式に加え、レーザー光を使う光方式、シリコン上の電子を使う半導体方式を並行して開発する。それぞれの方式での研究開発の第一人者をリーダーに迎えた。

 ほかにも新たな量子制御技術を探求する研究チームや、量子計算の基礎理論の研究チームなども編成した。RQC内のチームやユニットは15に及び、所属する研究者は客員や研修生も含め130人を超える。量子コンピューターで複数の方式を開発する研究機関は多い。ただし「比較的研究が進んでいる3方式の陣容が同時にこれだけ充実しているのは、世界的に見ても珍しい。RQCの強みだ」。

 異なる分野の研究チームをRQCに集結させたのは、中村の意図を反映している。理由は「量子コンピューターはまだ本命の方式がどれになるかを描けておらず、多角的な研究が求められる分野」だからだ。そしてもう1つ理由がある。「違う考え方や専門性を持った研究者たちが集まることで、新たな成果が生まれる」という多様性の効用を期待しているからだ。

 異なる方式でも、安定した計算に不可欠な量子もつれの持続やノイズ問題の解決など、技術的な難しさには共通点も多い。異なる研究者が議論する過程で、新しい気付きやアイデアが生まれる環境ができているという。