今は請求書関連業務を効率化するクラウドサービスなどを提供するLayerX。当初ブロックチェーン事業での成長を目指したが、挫折を余儀なくされた。学生起業家の先駆けでもある経営者の事業転換にかけた思いを聞いた。
「現在LayerXはブロックチェーンに関わる事業を主たる事業としてやっておりません。LayerXはもうブロックチェーンの会社ではないのです」
LayerXのCEO(最高経営責任者)、福島良典は2021年8月に、ある文章投稿サービスでこうつづった。NFT(非代替性トークン)などブロックチェーン技術を使ったビジネスが盛り上がりつつある中で「祖業」から離れる宣言をするかのような「CEO声明」だった。
挫折したブロックチェーン事業
福島は起業家として名を知られた存在だ。東京大学で機械学習を専攻し、大学院時代の2012年にニュースアプリ「グノシー」などを提供するGunosyを設立する。「シリコンバレーのスタートアップに憧れていた」という福島は、学生起業家ブームの先駆けとなった。
そして2018年、Gunosyで培ったブロックチェーン技術を使った事業に挑戦すべく、新たに立ち上げた子会社がLayerXだった。その後、福島はLayerXの経営に専念し、2019年にはMBO(経営陣が参加する買収)により、Gunosyから独立を果たしている。
LayerXは設立以降、ブロックチェーン技術を用いて企業のDX(デジタル変革)を支援するコンサルティングやシステム開発支援などを手掛けていた。2019年には三菱UFJ信託銀行などとブロックチェーン技術を活用した金融取引サービスの実証実験にも乗り出している。そうした取り組みが認められ、2020年に日本ブロックチェーン協会から表彰されてもいた。
だがこの年にLayerXは「ブロックチェーンの会社であることやめる」との決断をするに至る。「顧客の事業課題をブロックチェーンだけで解決するのは難しかった」と福島は語る。
ブロックチェーン技術が企業間の取引などに利用されるようになるには、個々の企業の業務はもちろん、経済活動全般のデジタル化が進展している必要がある。依然として紙や印鑑、ファクスなどでの取引が多い日本では、ブロックチェーン技術を軸にしたコンサルやシステム開発支援の事業モデルは無理があったのだ。