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弁護士がベンチャー企業に転身して電子契約サービスの普及に挑む。橘大地を動かしてきたのは社会を変えたいとの強い思いだ。国内トップシェアに育てたその手腕で日本の古い慣習に風穴を開ける。

 新型コロナウイルス禍のさなか、電子的な文書によって契約を完結させる電子契約サービスに注目が集まっている。契約当事者の代わりにサービス事業者が電子署名を施すことで契約などの有効性を担保する。国内では弁護士ドットコムの「クラウドサイン」が圧倒的シェアを持つ。この事業をけん引するのが弁護士でもある橘大地だ。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 2020年6月15日、大きな動きがあった。法務省の商業・法人登記におけるオンライン申請で、電子契約サービスの電子署名を付けた文書を使えるようになったのだ。従来は、取締役全員の電子証明書を準備する必要があった。電子契約サービスの活用で、オンライン申請に必要な準備の手間と時間が大幅に削減される。

 その陰に橘の尽力があった。2020年5月12日、橘は内閣府規制改革推進会議のワーキンググループの会合に参加した。クラウドサイン8万社の利用実績を基に、電子契約にまつわる規制の緩和を訴えるためだ。その中で、商業・法人登記における規制緩和を強く要望したという。

 電子契約サービスを利用した文書で登記申請しても法務局で断られる実情を伝え、利用ガイドラインなどの変更の必要性を訴えた。実情を踏まえた訴えは功を奏し、クラウドサインなど電子契約サービスが登記の申請に使えるようになった。

 商業・法人登記という企業活動に欠かせない行政手続きで電子契約サービスの利用が認められたインパクトは大きい。法的有効性への懸念を払拭できるため、新型コロナ禍対策として電子契約サービスの導入を検討している企業の背中を強く押すことになる。今まで一歩ずつ道を切り開いてきた橘は「新型コロナ禍で電子契約の普及が一気に加速した」と話す。

普及に立ちはだかる2つの壁

 ベンチャー企業を支援する法律事務所の弁護士であった橘が現職に就いたのは2015年、30歳の時だ。弁護士ドットコム創業者の元榮太一郎に、近くサービスインするクラウドサイン事業の責任者にならないかと誘われた。起業家と接する中で自らも社会変革の担い手を志すようになっていた橘は、転職を決意する。

 だが、ビジネスは甘くはなかった。当時の日本になかったサービスだ。思ったようには導入が進まなかった。2つの壁が立ちはだかったのだ。