情報通信研究機構でサイバーセキュリティ研究所を率いる盛合志帆。学部卒でNTT入社後に暗号研究を始め、ソニーのゲーム機開発にも従事した。異色の暗号研究者は今、日本のサイバーセキュリティーの底上げに挑む。
盛合志帆は国の研究機関である情報通信研究機構(NICT)のサイバーセキュリティ研究所で研究所長を務める。同研究所は、暗号技術やサイバーセキュリティーに関する研究と安全性評価、人材育成などに取り組む機関だ。
盛合がいま最も力を入れているのが、「サイバーセキュリティネクサス(CYNEX)」と呼ぶ産学官の連携拠点づくりだ。CYNEXはサイバーセキュリティー情報の収集・分析・提供や国産セキュリティー技術の検証環境の構築、人材育成などに取り組む場として、盛合が所長に就任した2021年4月に発足した。
具体的な活動としては、例えばサイバー攻撃観測・分析システム「NICTER(ニクター)」などを活用して情報を収集・蓄積するとともに、こうした情報の解析者のコミュニティーもつくる。「国内のサイバーセキュリティー産業の育成・強化に向けた拠点にしたい」と盛合は意気込む。
研究に向き合い見つけた課題
盛合とNICTとの「出会い」は突然だった。同世代の暗号研究者の仲間たちとの忘年会で、NICTのセキュリティ基盤研究室室長の職が公募されていることを知った。帰宅後に公募を改めて見たとき、「まさに私がやるべき仕事だな」と思ったという。おせち料理を作りながら熟考し転職を決意、2012年の年明け早々に履歴書を提出した。
夫にも相談しなかった。一度目の転職のときとは違い、今回は「自分が成すべき仕事は自分で選ぶ」との思いがあったからだ。
盛合が暗号技術の専門家として、キャリアを積み始めたのは、学部卒で入社したNTTで暗号分野の研究所に配属されたのがきっかけだ。暗号を全く知らない状態からのスタートだった。それでも、三菱電機と共同開発していた共通鍵ブロック暗号Camellia(カメリア)の設計や安全性解析、標準化などで実績を積み上げた。その後、東京大学で博士号を取得している。
「NTTにずっといるつもりだった」という盛合に最初の転機が訪れる。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)を訪問したときのことだった。