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駒沢大学でDX(デジタル変革)を掲げ、異色の経歴を持つ学長が就任した。デジタルを活用し、多様性に富んだグローバルな大学への変革に挑む。430年前の「学林」に端を発する歴史に変革の新たな1ページを加えられるか。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 2022年に開校140周年を迎える駒沢大学に、DX(デジタル変革)を掲げる学長が誕生した。「デジタル活用により、道元のチャレンジ精神やグローバル精神を今の時代に生かす」。学長の各務洋子はそう語る。

 駒沢大学の前身は約430年前に設けられた曹洞宗の学林(学問所)。長い歴史を持ち、開祖である道元以来の禅の精神と伝統に根差した大学だ。そんな駒沢大学で、2021年4月に学長に就任した各務は公約した。「デジタル化を通じて、よりグローバルで、よりダイバーシティー(多様性)ある大学に変革する」。

 各務は大学学長としては異色の経歴を持つ。米国の大学院でMBA(経営学修士)を取得し、一旦はコンサルティング会社に就職した。しかし「仕事をすればするほど経営学の面白さを実感した」という各務は、学問の道に転じる。国際基督教大学大学院で博士号を取得し、駒沢大学で経営学を教えることとなった。

 各務はMBA取得のため渡米しようとした際、子育て中を理由に周囲から猛反対された経験がある。「米国の大学院に行ってみると、子育て中の学生が大勢いた。やりたいことができる米国と、立場や境遇によって制約を受ける日本との違いにショックを受けた」。今の学生には世界を見てほしいし、個性をつぶして可能性を狭めてほしくない。各務がグローバルやダイバーシティーを語るのには、そんな思いがある。

デジタルで大学の在り方を変える

 新型コロナウイルス禍では、デジタル活用の威力を実感した。国際学会がオンライン開催となったことで、これまで物理的な制約で出席できなかった子育て中の女性などの参加率が大幅に向上したのだ。さらに、留学期間中に帰国せざるを得なかった学生が、オンラインで留学先の授業に参加し続けているのを知った。

 各務は確信した。「デジタル技術をツールとして活用すれば、大学の在り方は変わる。個人の状況に最適化した対応ができれば、大学のダイバーシティーとグローバル化も進む」。

 もちろん、目指す大学のDXはまだ緒に就いたばかりだ。まずは教職員の仕事を効率化するために、決裁処理のオンライン化や学生の質問に自動応答するAI(人工知能)チャットボットなどを導入した。学びのデジタル化はこれからだが、構想がある。終業後に受けられるオンライン授業は社会人から需要が高く、仏教関係の授業は海外の人からの関心が高い。「授業の内容を多言語に翻訳し、オンデマンドで配信すれば、社会人や海外の人も駒沢大学に入学し、授業を受けられる」。