定年を待たずに教職から離れ、新たな学習支援システムの普及に挑む。子供たちの関心に応じて、AI(人工知能)が科学・技術系動画を推薦する。デジタル時代に必須となる「学びに向かう力」を育むことが目標だ。
「学習材料はインターネット上にたくさんある。子供たちが取捨選択し、自ら学ぶ主体性を身に付けることが大切だ」。元教師にして教育スタートアップMAZDA Incredible Lab(マツダインクレディブルラボ)を創業、CEO(最高経営責任者)を務める松田孝はこう訴える。
同社は2021年4月から、小中学校や高校向けに学習支援システム「Shuffle.(シャッフル・テン)」の提供を始めた。AI(人工知能)システムなどの開発を手掛けるArithmer(アリスマー)と共同で開発した。
学びに向かう好奇心を醸成
Shuffle.は、子供たちの学びに向かう好奇心や探究心を醸成するきっかけとなる10本のSTEM(科学・技術・工学・数学)系コンテンツをAIが抽出・選択するサービスだ。動画はYouTube上に数多く存在する学習動画から選ばれる。例えば「小5算数 整数と小数」や「雑学算数 身の回りのものを図形を使って描いてみよう」といった動画のサムネイルを一覧表示する。
子供たちが動画を視聴する際には、まずShuffle.に学校の授業の振り返りを自由記述文で入力する。するとAIが解析して学習動画を推薦する。子供たちはその中から興味を持った動画を視聴し、視聴後に感想を書き込み、4段階で評価する。教師による押し付けではなく、あくまでも子供たちの主体的な学びを促す仕組みだ。
動画視聴の履歴や感想などはデータとして蓄積され一覧表示できる。子供たちが自らの学習経過を振り返ることができるだけでなく、学校の教師が子供たちの視聴動画や感想を確認して、共感したり褒めたりすることでさらなる学びを促せる。
松田は起業前、東京都の公立小学校教師や教育委員会の主任指導主事、小学校校長などを歴任した。小金井市立前原小学校の校長時代には「こどもパソコン」として知られるボード型コンピューターIchigoJam(イチゴジャム)を使い、プログラミングの授業体系を確立するなど、ICT教育の先進的試みで注目を集めた。
2019年3月、松田は定年まで1年を残して辞職した。教師としての定年再雇用の道を選ばなかったのは、心に期すものがあったからだ。翌4月には「ICTを活用して学びを変革する」を掲げて起業した。