激化する量子コンピューターの開発競争の中、日本では人材不足が深刻だ。状況を打開しようと、量子技術を研究する若手研究者が立ち上がった。人材育成プログラムを自らの手でつくり、次の世代を担う研究者を育成する。
「世界でも人材が足りないが、日本は圧倒的に人材が足らない」。量子技術教育(QEd)プログラムの代表研究者を務める野口篤史は、日本の量子技術研究への危機感をそう表す。
米国や欧州、中国など世界中で量子コンピューターや量子暗号通信の実用化を目指す動きが加速している。日本でも2020年1月に内閣府が量子技術イノベーション戦略を策定し、量子技術の研究開発は今や重要な政策テーマだ。だが、それを担う研究者や技術者が大幅に不足しているのだ。
技術を学び、つながれる場を提供
QEdプログラムは量子技術に関するスクール形式の講義や、常時閲覧できる講義動画や教材をオンラインで提供しようというもの。量子科学技術により社会・経済の課題解決を目指す文部科学省の「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」の人材育成プログラムに、野口らが提案し採用された。
2021年9月にはキックオフとして量子技術を学ぶオンライン・サマースクールを開講した。主に量子力学を学んだ大学生を対象にしたが、受講者は想定を超えた。「Twitterで募集したところ、社会人に加え高校生も参加してくれた」と野口は顔をほころばせる。
講義や教材では、超電導やイオントラップ、光量子など量子コンピューター関連技術を網羅的に学べる。量子暗号通信や量子ソフトウエアに関する講義も用意した。プログラムづくりには全国各地の研究者が参画している。
実は、参画した研究者は学生時代からの仲間たちだ。野口は「サマースクールがなければ出会わなかった」と話す。大学院生の頃に量子技術関連のサマースクールが開催され、研究に関わる大学院生が参加した。もちろん野口もその一人だ。そこで研究を軸に同世代のつながりができた。QEdプログラムは、そのときに出会った研究者の共通の思いを形にしたものだ。
「まずは興味を持ってもらい、その上で新たなつながりをつくる場が必要だ」。量子人材の不足が叫ばれる中、皆で集まればそんな話で盛り上がっていた。そこで野口が代表として皆の総意をまとめる形でQ-LEAPに応募し、見事に採用されたわけだ。