副業のマッチングサービスを手掛ける令和生まれのベンチャー企業。企業に加え地方自治体のDX(デジタル変革)人材の採用なども支援する。「副業ではなく複業。複業の文化をつくりたい」と語る若き起業家の思いとは。
「多くの人が様々な仕事に挑戦できる『複業』文化を日本に定着させたい」と語るのは、Another works(アナザーワークス)を率いるCEO(最高経営責任者)の大林尚朝だ。大林が起業した同社は、副業を希望する人材と企業などをマッチングする「複業クラウド」を手がける。
大林は副業を「複業」と表現する。「副業はサブという意味だが、複業はマルチを意味する」と説明する。本業と副業の区別なくマルチで働くといった意味を込めたわけだ。
複業クラウドは「複業」が可能な人材をデータベースに登録し、企業などが希望する人材に直接アプローチできるようにしたサービスだ。当初、採用側は企業のみだったが、最近では地方自治体にも利用が広がっている。
2021年10月15日には、同社と連携協定を結び実証実験の形で複業クラウドを利用する三重県伊賀市が「DX戦略アドバイザー」などとして3人を採用したと発表した。11月末時点で全国20の自治体と協定を結んでおり、人材の登用を進めている。
令和最初の営業日に起業
大林の実家は大分県で自営業を営んでいた。経営者として働く父親の姿を見て育ったこともあってか、幼少期から企業経営に関心があったという。
最初の就職先は、人材紹介などを手掛けるパソナだった。人材紹介業を選んだのは「仕事を通じて幅広い業界を見られるから」という。
パソナでは約3年、人材紹介の営業として数百社を訪問した。その際に驚いたのは、同業界が採用側の企業から受け取っていた成約手数料の高さだった。「例えば業務委託人材の紹介では、成約手数料が50万円ぐらいかかる」。手数料の高さゆえに人材獲得を諦める企業が後を絶たなかったという。
限界に悩んでいるときに、心に浮かんだのが父親のように自ら事業を手掛けることだった。ITを活用すれば人材紹介のビジネスモデルを変えられるのではないかと考え、起業を決意する。
だが、即座に起業に動いたわけではない。まずビズリーチに転職して1年半にわたり、事業承継支援などのマッチングサービスの立ち上げに参画する。ITをフル活用するプラットフォームビジネスの本質を学び、2019年5月7日にAnother worksを設立した。令和の最初の営業日だった。
大林が「複業」つまり副業に事業の焦点を定めたのは、様々なことに挑戦する人を応援したいという思いに加え、起業家としての冷静な判断があった。人材紹介の中でも副業支援はこれからの領域で参入余地がある。成果報酬型ではなく月額定額サービスにしたのも、新たな工夫だ。