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技術者であり起業家である藤野真人は、演劇の主役も務めたほど多才な人物。これまで開発した技術や製品は音声認識AIをはじめ多岐にわたる。そんな藤野が新たに開発した「首掛け端末」で世界に挑む。その秘策とは。

(写真:陶山 勉)
(写真:陶山 勉)
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 薄幸の少女とプログラマーの物語。2021年11月に東京で上演された演劇「LAST BRESS ~あの日の嘘と星の窓と~」は、フェアリーデバイセズCEO(最高経営責任者)の藤野真人の実体験に基づく物語だ。知人の演出家が舞台化したが、主役には藤野自身を起用した。「本人が本人を演じてほしい」と強く請われて引き受けた藤野は、全くの未経験ながら仕事の合間に猛練習を重ね、公演を乗り切った。

 藤野は実に多才な男だ。自作プラネタリウムソフトの販売にヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)の受託研究、音声認識関連のAI(人工知能)開発、スマートスピーカーの製品化…。これまでに藤野が手掛けた事業は多方面にわたる。心の赴くまま、才能に導かれるままに没頭し、形にすると関心は次へと移る。その繰り返しだった。

 そんな藤野が転機を迎えようとしている。きっかけは首掛け型のウエアラブル情報端末と関連サービスの「LINKLET(リンクレット)」の開発だ。既存のヘッドマウントディスプレー(HMD)などは、主に装着者自身が情報を得るために使う。LINKLETのコンセプトは違う。「装着者の『一人称』の体験を他の人たちが遠隔共有できる」と藤野は説明する。

 U字型のきょう体の先端に4Kカメラを付け、マイクやスピーカー、装着者の動作を検知するセンサーを内蔵した。首に掛けるとカメラの位置が鎖骨の辺りにくるため、カメラ映像は装着者の目線の位置に近い。無線通信により4K映像などのデータを送り、Zoomなどで視聴できる。実際の映像を見ると、装着者の視線で見ているような印象を受ける。製造業や建設業などの利用に加え、料理教室やゴルフレッスンなど身近な用途も見込む。

 このウエアラブル製品に今、世界が注目し始めている。世界最大のデジタル技術見本市「CES」の開催に合わせ、全米民生技術協会(CTA)が革新性や独創性に優れた製品を表彰するイノベーションアワードを、「ウエアラブル技術」「ストリーミング」「デジタル画像/写真」の3部門で受賞したのだ。

 藤野はアワード受賞を米国進出の足がかりにしたい考え。まず2022年1月5日からラスベガスで開催されるCESに出展する。さらにシリコンバレーのベンチャーキャピタルなどから投資を募ることも視野に入れ、ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)が生存競争を繰り広げるスタートアップ市場の中心に打って出る。