マテリアルズ・インフォマティクス(MI)などに早くから取り組んできた旭化成。現場ごとの取り組みを改め、全社的なDX(デジタル変革)に着手した。事業部門や企業の枠を超えた「共創」で事業モデルの変革を目指す戦略とは。
旭化成は2016年から研究開発や生産などの現場に密着したデジタル化に取り組んできた。テーマ数で言うと400以上に達する。例えば研究開発において、AI(人工知能)などの手法を応用して材料開発の効率を高めるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を活用している。生産関連では建物や設備、製品、人などを仮想空間に再現するデジタルツインを導入した。
日本IBMでCTO(最高技術責任者)を務めていた私が2020年7月に入社したとき、こうしたデジタル化の取り組みについて、事業部門の壁を超えた情報共有が進んでいないことに気づいた。社内に複数のデジタル推進組織があり、個々にデジタル人材を育成してきた。IT部門は基幹系システムのみを管理する体制だった。
旭化成は化学品などのマテリアルやヘルスケア、住宅と幅広い事業領域を持っているが、このままでは既存の事業の枠を超える新しいアイデアが生まれにくい。全社的なDX(デジタル変革)に取り組み、縦割りの組織風土を変えていく必要があった。
そこで新たな改革に着手した。現場ごとにデジタル化を進めていた時期を「デジタル導入期」、2020年度以降を「デジタル展開期」と位置付け、「デジタルの力で境界を越えてつながる」ことなどを目指す「DX Vision 2030」を策定した。並行して組織再編や4万人の社員を対象にしたデジタル教育などに取り組んできた。
IT部門とデジタル推進組織を一体化
2021年4月に実施した組織再編では、IT部門であるIT統括部とインフォマティクス推進センターやスマートファクトリー推進センターを一体化して、「デジタル共創本部」を設置した。