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 金融×ITの専門誌「日経FinTech」2019年9月号に掲載した特集「KYCの夜明け」を再掲する。スマートフォンなどデジタル手段による本人確認「eKYC」が、使い勝手の良い新たな金融サービスを生み出す原動力になっている。

 銀行特有の資産である「口座情報」。これをフル活用したeKYCサービスを展開しているのが三菱UFJ銀行だ。2019年5月、ネット証券やFX事業者などの本人確認業務を支援する「本人確認サポートAPIサービス」を始めた。

 使い方はこうだ。本人確認を実施したい事業者は、まずサービスの利用者に対して画像データなどで本人確認書類の提出を求める。

 その後、本人確認手続きに関して利用者の同意を経たうえで三菱UFJ銀行のインターネットバンキング「三菱UFJダイレクト」にログインしてもらう。その際に、まず住所確認画面を表示する。同銀行が持つ本人情報のうち「氏名と生年月日は変わらないが、住所は更新できているとは限らない」(デジタル企画部調査役の柳澤隆氏)ためだ。住所に変更があれば、利用者はこの画面から情報を更新できる。

 利用者の住所を確認したら、事業者は三菱UFJ銀行から利用者の氏名や住所、生年月日といった本人特定事項をAPI経由で取得する。事業者はこれらを本人確認書類と突き合わせて、利用者と同一人物であると確認する。

 本人確認サポートAPIサービスの対象となるのは、三菱UFJダイレクトの口座所有者。三菱UFJダイレクトの契約者数は1800万強という。犯収法施行規則六条一項の「ト(1)」である「本人確認書類と銀行情報の照会」を利用した形だ。銀行は一般に、口座開設の際に厳格な本人確認を実施する。口座にひも付いた個人情報は銀行だからこそ提供できる付加価値といえる。

●三菱UFJ銀行が導入した「本人確認APIサービス」の概要
●三菱UFJ銀行が導入した「本人確認APIサービス」の概要
※三菱UFJダイレクト内で本人特定事項などの提供について許可を得た利用者のみ対象
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 北陸銀行などが採用した犯収法施行規則六条一項「ホ」の方式と大きく異なるのは、身分証や容貌の撮影といった利用者による作業が軽減できる点だ。本人確認時に、保険証など顔写真がない本人確認書類でも使える。利用者による撮影などが不要なだけでなく、「顔の撮影に抵抗を感じる人もいる」(柳澤氏)ため、心理的ハードルを下げる効果も見込める。

 本人確認サポートAPIサービスに対し、「既に多数の事業者から引き合いがある」と柳澤氏は話す。当初は犯収法の対象となる特定事業者を対象とするが、シェアリングサービスや民泊サービスなど、本人確認が重視される傾向にあるその他の分野にも商機があるとみる。「人口の98%が保有する銀行口座にひも付く本人確認は、将来的に社会インフラのような役割を担うのではないか」。柳澤氏はeKYCの今後をこう見通す。

「ATM+eKYC」で挑む

 ATMにeKYC機能を載せて、その場で口座開設を可能にする──。こんなユニークな取り組みに挑むのがセブン銀行だ。

 利用するのは、セブン銀行がNECと共同で開発し2019年9月に発表した次世代型ATM。第4世代となる新型ATMの最大の特徴は、利用者を撮影するカメラや本人確認書類などを読み取るためのスキャナーを備えている点だ。これによりATMで口座開設時に必要な本人確認ができる。

 2019年10月には一部のATMで、セブン銀行の口座を開設できるようにする実証実験を始める予定だ。以下のような手順を想定している。まず利用者はスマホで事前に氏名などの必要事項を登録してQRコードを受け取る。その後ATMに行き、QRコードを読み込ませる。

 続いて免許証の読み取りと顔の撮影を実施。事前に登録した情報と照会して問題がなければ口座開設に進む。

 セブン銀行は2020年の夏までに都内のATMを、2024年までに国内約2万5000台のATM全てを新型機に入れ替える計画だ。新型ATMへの投資額は数百億円に上るという。「ATMの全国展開とともに口座開設も広げていきたい」(セブン銀行)とする。

 ACSiONは新型ATMでの成果も生かしつつ、eKYCと不正検知を組み合わせたサービスを展開する考えだ。関係当局との手続きを済ませた後、今秋の早い時期の提供開始を目指すという。

 「全国に配置されたATMネットワークを保有している点で、我々はユニークな立場にある」と、ACSiONでCIO(最高情報責任者)を務める瀧下孝明氏は強調する。安田氏は例えば、「幅広い年代が使うATMで本人確認ができれば、複雑なスマホ操作に付いていけない高齢者などのニーズに応えられるかもしれない」と期待を寄せる。

 同社は2019年10月に、FinTech企業が集結している東京・大手町のFINOLABに拠点を移す。安田氏は「スタートアップのとがった技術と我々のノウハウを組み合わせ、コラボレーションを積極的に進めていきたい」と力を込める。

●セブン銀行がNECと共同開発した第4世代のATM
●セブン銀行がNECと共同開発した第4世代のATM
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