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接着の「見える化」、すなわち界面の分析技術に関して、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から特筆すべき5つの研究開発の成果が出ている。このうち、応力発光技術を使った接合部の可視化技術について研究者に語ってもらう(日経 xTECH)。

寺崎 正氏
寺崎 正氏
(写真:寺尾 豊)

 接着・接合は 、必要な「力(ちから)」が必要な期間に得られるかどうかが全てだ。ところが、我々は「力の情報」が見えない世界に住んでいる。そのため、見えない接着接合部の「力の情報」を多くの経験や知見から適切に想像して設計に反映する人を 「専門家」と呼び、その経験と蓄積したデータベースを基にした「強度予測(シミュレーション)」を設計のよりどころとする。もちろん、このことは今後も揺らがないだろう。しかし、本当は見えていないが故に、次のような疑問を払拭できない。

  • 本当に、「力の情報」に関する過去の知見は正しいのか?
  • どのように力がかかることで、接着接合部は破壊に至るのか?
  • 本当に、強度予測(シミュレーション)は正しいのか?
  • 本当に、破壊に強い接着接合の設計になっているのか?
  • 本当は、見えない所で剥がれているのではないか?

 もし皆が「力の情報が見える世界」にシフトできれば、誰もが専門家と同じ目線で接着接合部を見る(評価する)ことができ、信頼性の高い設計と予測が可能になる。こうした夢のような世界を目指し、我々は独自に「応力発光」技術を開発し、接着接合部に由来する「力の情報(ここでは、ひずみ情報)」の可視化を行っている。

応力発光技術、動的ひずみ情報の「見える化」技術

 応力発光技術の核は、応力発光粒子(セラミックスで、代表的材料はSrAl 2O 4:Eu 2+、発光色は緑)である。この応力発光材料を含む塗料、もしくはシートをセンサーとして、「力の情報」を知りたい対象箇所に塗布、もしくは貼り付ける。そして、荷重を印可した際に得られる応力発光をカメラなどで撮影する(CCDやCMOS、市販のビデオ、携帯のカメラでも撮像が可能)。その発光によってどこに力が加わり、どの程度ひずみが発生したのかが見える。これが応力発光である。

 どの程度の力が発光に必要なのか。図1(a)は、応力発光塗料を内側に塗った紙コップの外底を指先で擦(こす)った際の応力発光像である。指先の弱い力でも十分に目視できる

(出所:産業技術総合研究所)
図1●応力発光の特徴
(a) 応力発光紙コップの発光。(b)円孔試験片の応力発光とシミュレーション。(c)切欠き先端での応力発光。
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動画1●応力発光紙コップ〔図1(a)〕

動画2●円光試験片での応力発光〔図1(b)〕

* 0.05%ひずみ程度以上は十分に検知できる。計測条件次第では0.01%ひずみ程度も検知が可能

 なぜ、応力発光で「力の情報」が見えるのか。応力発光輝度(mcd/m2)とミーゼスひずみ値(%、μst)には、明確に相関関係がある。従って、荷重を印可した際に、周囲より強く発光する場所は、ひずみが集中して発生したと認識できる。加えて、基本的に応力発光パターンとひずみ分布のシミュレーション結果は一致することが多い〔図1(b)〕。

 これを利用することで、本来は見えない応力やひずみの分布、き裂の発生やその進展を応力発光で可視化でき、誰でも直観的に分かるようになる〔図1(c)〕。こうしたスマートな直観力を得られることが、応力発光の大きな特徴である。この特徴を生かし、我々は下記のようなことを進めている。

  • 実構造物(橋梁や建物など)の健全性のモニタリング
  • 実構造部材の破壊予兆・過程の可視化(目的:設計の高度化)
  • 実構造部材のひずみ分布の可視化(目的:構造解析)
  • 応力発光を教師データとするシミュレーションの高度化
  • 応力発光を塗布した精密模型・3D印刷器物を介した設計のアジャイル(agile)化(図2
図2●応力発光の特徴を生かした開発例
図2●応力発光の特徴を生かした開発例
(a)応力発光を教師データとするシミュレーションの高度化。(b)応力発光を塗布した3D印刷器物を介した予測高度化と設計のアジャイル化。(出所:産総研)
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動画3●車体モデルでの正面衝突時の応力発光(図2)

 応力発光技術を使えば、先に挙げた疑問をほぼ解消できると我々はみている。

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