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接着の「見える化」、すなわち界面の分析技術に関して、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から特筆すべき5つの研究開発の成果が出ている。このうち、接着後の欠陥の検出技術について研究者に語ってもらう(日経 xTECH)。

遠山暢之氏
遠山暢之氏
(写真:寺尾 豊)
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 接着接合を使った構造部材では、信頼性を確保するために、接着強度に悪影響を及ぼす欠陥を確実に検出できる非破壊検査技術の開発と規格化が求められている。接着面の欠陥は表面からは見えない。従って、比較的簡便に内部欠陥を検出できる超音波探傷検査の適用が有望だ。我々は、レーザー超音波可視化探傷検査の開発を進めている。迅速に検査でき、かつ非接触での検査も可能であることから、実用性が高いからだ。

 一般的な超音波探傷検査は、超音波を発信・受信する圧電振動子を組み込んだ超音波探触子を被検体に接触させて行われる。これに対し、レーザー超音波探傷検査は文字通りレーザーを被検体に照射して、表面の熱膨張やアブレーションによって励起される超音波を使った非接触探傷が可能な手法である。

 我々はパルスレーザーを、ガルバノスキャナーを使って任意形状の被検体表面で非接触高速走査させ、励起された超音波を被検体表面に設置した超音波探触子で検出して、その伝搬する様子を「見える化」するレーザー超音波可視化技術を開発した。

 図1にレーザー超音波可視化計測システムを示す。YAGパルスレーザーのビーム径を、焦点可変レンズを介して絞った後、2軸ガルバノスキャナーを使い、被検体の検査領域枠内を格子状に最高で毎秒1万点の高速走査を行う。超音波探触子で検出した各照射点の超音波信号の振幅を、輝度変調しながら時系列的に画像表示することで、あたかも超音波探触子から発生している超音波かのような伝搬映像を得ることができる。

図1●レーザー超音波可視化計測システム
図1●レーザー超音波可視化計測システム
(出所:産業技術総合研究所)
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超音波伝搬の「乱れ」から欠陥を視覚的に検出

 一般に、超音波は縦波や横波といった複数のモードでそれぞれが異なる速度で伝搬する。従って、欠陥や境界部でそれらの散乱や反射、モード変換などが生じるため、検出信号が複雑になって、欠陥に起因するエコーだけを正確に抽出することが難しい。これに対し、本手法によって超音波が伝搬する様子を可視化することで、欠陥検出が極めて容易になる場合がある。

 図2に、直径1.5mmの円孔を有する鉄鋼材料に対して超音波の伝搬を可視化した結果を示す。超音波が画像中央に存在する円孔に到達すると、水面に石を落としたときに現れるようなエコーを明確に確認できる。このように、超音波の伝搬の「乱れ」から欠陥を視覚的に検出するのが本手法の特徴である。

図2●円孔を有する鉄鋼材料を伝搬する超音波の可視化映像
図2●円孔を有する鉄鋼材料を伝搬する超音波の可視化映像
(出所:産総研)
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 炭素繊維強化樹脂(CFRP)とアルミニウム(Al)合金の接着界面に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)「テフロン」フィルム(一片が5、10、20、50mmの正方形)を挿入して人工欠陥を導入した接着接合試験片を作製(図3)。接着接合部のレーザー超音波可視化探傷検査を実施した結果を図4に示す。

図3●人工欠陥を導入したCFRPとAl合金の接着接合試験片
図3●人工欠陥を導入したCFRPとAl合金の接着接合試験片
(出所:産総研)
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 超音波が人工欠陥部に到達すると明確な位相の遅れが現れ、その後、欠陥端部からの反射エコーが確認できる。加えて、各照射点で計測された超音波信号の最大振幅値をプロットした最大振幅画像も併せて示す(図4の右)。ちょうど欠陥の存在する領域で最大振幅画像にコントラストが現れており、欠陥のおおよその形を確認することができる。

 例えば汎用的な水浸超音波探傷法などを使って時間をかけて超音波探触子の機械走査を行えば、こうした欠陥はより鮮明に検出できる。しかし、被検体を水に浸す必要があるため被検体のサイズも限定され、また複雑形状物の検査が難しいといった問題がある。一方、本手法は被検体に対してパルスレーザーを非接触走査するだけなので、被検体の形状にほぼ制約もなく、迅速で広い領域のスクリーニング検査を行える。これが大きな利点である。

図4●接着接合部のレーザー超音波可視化探傷検査結果
図4●接着接合部のレーザー超音波可視化探傷検査結果
左が接着接合部を伝搬する超音波の可視化映像。右が最大振幅画像。(出所:産総研)
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完全非接触レーザー超音波可視化計測システムの開発

 以上の検査例では、超音波の励起に非接触パルスレーザー照射を使い、超音波の受信には接触式超音波探触子を使用した。受信に接触式を採用したのは、感度と安定性が高い上に安価なため、最も実用的な計測システムを構築できるからである。

 一方で、高温部や高所部の検査、あるいは水などの接触媒質の使用を嫌う部品検査などでは、「完全」非接触検査に対するニーズは高い。そこで、我々は超音波の受信に接触式超音波探触子からレーザー干渉計に置き換えた完全非接触レーザー超音波可視化計測システムの開発を進めてきた。図5にレーザードップラー振動計(以下、LDV)を使ったCFRPの層間剥離(一種の接着接合欠陥)検出システムを示す。

図5●LDVを使った完全非接触レーザー超音波可視化計測システムによるCFRPの層間剥離検出
図5●LDVを使った完全非接触レーザー超音波可視化計測システムによるCFRPの層間剥離検出
(出所:産総研)
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 図6に、LDVを使った完全非接触レーザー超音波可視化結果との比較のために、従来の接触式超音波探触子を使った結果を併せて示す。現状の技術レベルでは、LDVの超音波検出感度を向上させるために、LDVレーザー照射部への表面処理およびノイズを低減するための複数回のパルスレーザー照射が必要となる。そのため、接触式に比較すると走査時間はかかる。だが、完全非接触計測であるにもかかわらず、ほぼ遜色ない鮮明な超音波伝搬映像が得られている。実際、CFRP内部の約10mmの層間剥離による位相遅れと反射エコーを鮮明に検出することができている。

図6●CFRPの層間剥離検出結果
図6●CFRPの層間剥離検出結果
上はLDVを使った完全非接触レーザー超音波可視化。下は接触式超音波探触子を使った超音波可視化。(出所:産総研)
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