広い競技場でスポーツを観戦していると音響が不明瞭でアナウンスが聞こえずに、何が起こっているか分からない――。こんな経験をしたことがある人は少なくないはずだ。
こうした事態を防ぎ、スポーツ観戦をより楽しい体験にする。そうした狙いで東京の有明コロシアムに設置されたのが、パナソニックの「RAMSAスタジアム音響システム」だ。有明コロシアムは東京オリンピック・パラリンピックのテニスの会場になっている。2019年8月に設備の改修を終えたばかりだ。
RAMSAスタジアム音響システムは、複数のスピーカーを連結したラインアレイスピーカーやアンプ、そして音響制御用のソフトウエアで構成する。テニスの試合中に審判の判定が聞こえなければ試合の経過を追うのは難しい。有明コロシアムではすべての観客にシーンに合わせて明瞭な音が聞こえるようにする音響システムの設定技術を適用している。
有明コロシアムの特徴は天候などに合わせて天井が動く開閉式を採用していることだ。天井が開いているときを想定してスピーカーやアンプをセッティングすれば、天井が閉まっているときには音が聞こえにくくなる。反対に天井が開いているときに最適化した音響設定にすれば、閉まっているときに聞きにくくなる。
加えてオリンピック・パラリンピックではテニス会場になるが、有明コロシアムは音楽ライブや映像の上映などを行うことも想定している。スポーツの試合でも音楽でも、そして天井が開いているときでも閉まっているときでも、明瞭に音を伝えられる音響を設定する必要があった。
そこで有明スタジアムでは4つの音響パターンを用意し、用途に応じて切り替えられるようにしている。スポーツ観戦を想定したアナウンスの音が明瞭に聞き取れるための設定と、音楽ライブなどの響きが重要な用途向けの設定だ。それぞれについて天井が開いているときと閉まっているときの2パターンを用意し、合計4種類のパターンを作った。
テニスの試合中に雨が降って天井を閉める必要が出てきた。こうしたケースでは、最初に利用していたアナウンスが聞こえやすい天井が開いているとき向けの設定から、天井が閉まった際を想定した設定に切り替える。こうした使い方を想定している。