連載趣旨
 トヨタ自動車はなぜ強いのか。その理由は「トヨタ生産方式(TPS)」にあると、これまで頻繁に語られてきました。生産現場のムダ・ムラ・ムリを徹底的に追及して改善するゲンバの方法は製造業の模範となり、競合他社のみならず、他の業界までが導入する取り組みとなっています。

 しかし、TPSに勝るとも劣らない、いや、それ以上に高い競争力を磨いたものがあります。それが、設計です。設計力が伴っていなければ、いくら生産現場でムダを削っても、優れた製品を形にすることはできません。

 では、トヨタの設計は何が違うのでしょうか。まず、トヨタは「トヨタ車を選ぶお客様は安全と安心を購入する」と考えています。そのため、安全と安心を最優先した上で、品質と性能の目標を立てていきます。前段がなく、いきなり品質と性能の目標を立てる多くの企業とは一線を画す考えを持っていると言えるでしょう。これは、「トヨタらしさ」とは何かと、常にお客様が求めている「トヨタ」に対する期待を念頭に置いて設計を進める考え方が根付いているからです。

 加えて、トヨタの設計者は常に危機感を覚えています。安全か安心かは、あくまでもお客様が決めるものであり、お客様の感覚次第でそれらの水準は変化します。それでも、お客様の安全と安心の感覚にきちんと応えた設計になっているかと設計者は自らに問い掛けます。これが危機感の正体です。

 さらに、トヨタには設計ルールを守る風土があり、先人から技術やノウハウがしっかりと伝承されています。これらのルールを設計者は皆、きちんと守る。守らない人間は周囲の目には異様に映ります。

 こうした組織風土があるからこそ、多くの設計者で1つの目標に向かって、まとまり、お客様に満足いただける製品を提供できています。

 トヨタの設計には、競争に勝ち残れる考え方やノウハウがあるのです。このコラムではそれらを1つひとつ紐解(ひもと)いていきたいと思います。

中山 聡史(なかやま さとし)
A&Mコンサルト 経営コンサルタント
中山 聡史(なかやま さとし) 2003年 関西大学機械システム工学科卒 2003年 大手自動車メーカーにてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストなどにも同行経験有り。 2011年 株式会社A&Mコンサルトにて製造業を中心に設計改善、トヨタ流問題解決 の考え方を展開。 「モノ造りのQCDの80%は設計で決まる!」の理念の下、自動車会社での設計~開発~製造、並びに品質保証などの経験を活かし、多くのモノづくり企業で、設計業務改革や品質・製造改善、生産管理システムの構築などを支援している。