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 私は以前、トヨタ自動車の設計者でした。その後、設計改善やトヨタ流問題解決を手掛けるコンサルタントに転身したのですが、トヨタを離れて分かったことがあります。トヨタで設計をしていた時には「当たり前」「常識」「普通」であると理解していたことが、トヨタの外に出ると、そうではないことがたくさんあるのです。コンサルティングを通じて他社の設計の仕方や考え方を知り、また外からトヨタを眺めることで、私はトヨタの設計を客観的に見られるようになりました。そこで、トヨタの設計の方法や考え方に関して他社に参考になりそうなものを、このコラムで紹介していきたいと思います。

 もちろん、トヨタ流が全て優れているとは限りませんし、読者の皆さんに押し付けるつもりもありません。考え方を知っていただき、あくまでも皆さん自身や所属する部門、会社の設計力を強化するための参考になればと考えています。

 さて、本コラムで最初に取り上げたいのは、トヨタの設計マネジメントについてです。大上段に構えたように感じるかもしれませんが、実はこれが他社と大きく異なる点なのです。

一緒に悩み、答えの方向に導く上司

 トヨタにいた時、私は「プロになりなさい。一芸に秀でている人間というのは強い。社会に貢献できる人間になれる」と上司から日々言われ続けていました。また、こうも言われました。「トヨタを辞めても、一流と認められる人間になりなさい」と。厳しく指導された時もありましたが、それも今では良い思い出です。私を成長させてくれたトヨタに、今となっては本当に感謝しています。

 トヨタの設計マネジメントの方法は独特だなと気付いたのは、やはり、トヨタを辞めてからです。設計の現場は課題と隣り合わせです。課題や問題が発生した時には必ず、私の直属の上司は一緒に悩んでくれました。直属の上司だけではありません。周りの上司も皆、そうしてくれるのです。

 一緒に悩むといっても、上司が代わりに答えを出してくれるわけではありません。答えの方向に部下を導いてくれるのです。設計開発は、「1歩下がって2歩進む」という業務のため、課題や問題に対処することが日常茶飯事です。そんな時、「頑張って解決してみろ!」と言うのではなく、一緒に考える(もしかしたら一緒に考えるフリ)をして、部下に考えさせながら、正しい方向に導いってくれるのです。

出図に追われ、文句を言われるワケ

 さまざまな企業を訪問し始めた最初の頃、私は設計部門のマネジメントの在り方がトヨタと大きく違うことにとても驚きました。「マネジメント」は日本語で「管理」と訳されることが多いのですが、私はこの訳は間違いだと思っています。マネジメントの語源はイタリア語の「manus」と言われています。これには「馬を馴らす」などの意味があるとのこと。そこからマネジメントという言葉ができ、正確な日本語の訳は「うまくやる」、あるいは「どうにかする」です。「管理」とは程遠い意味です。

 多くの設計現場は、仕事を部下に丸投げしています。課題や問題を抱えて部下が困っていた場合でも、部下からの情報の発信がない限り、上司は動きません。こうしたマネジメントであるために、設計部はいつも出図に追われており、他の部門から文句を言われてしまうのです。

 本来の設計部門のマネジメント(設計部門に限らず)とは、部下をうまくコントロールしながら問題を解決し、顧客が満足する製品をアウトプットすることです。うまくコントロールした結果、素晴らしい製品に結び付かなければ意味がありません。設計者個人のエゴによる設計や、怠慢な設計管理者の下では良い結果は出せません。

 では、具体的に何を実施すべきなのでしょうか。