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 現在のさまざまな製品を見ていると、単一機能の製品はほとんどありません。ほとんどの製品が多くの機能を有し、複雑な構造をしています。ここにハードウエアだけではなくソフトウエアが絡むと、より一層構造は複雑になります。

 こうしたたくさんの機能を備えた製品を1社のみで設計・製造している会社はほとんどありません。大抵はその製品を造るメーカー(以下、製品メーカー)と、部品メーカーなどの協力会社が一体となって設計・製造しています。自動車はその最たるものでしょう。自動車産業が生まれた時から、自動車メーカーは多くの部品メーカーと共に設計・製造を行ってきました。

 以前、協力会社である複数の部品メーカーに話を聞く機会がありました。すると、図面に対する不満が止まりませんでした。以下のような具合です。

「製品メーカーは製造のことが分かっていないので、むちゃな図面を描いてくるんですよ。これで、どうやって金型を造れっていうんですかね?」

「今回は製品メーカーの若い設計者が担当なんですが、図面が間違いだらけなんです。でも、驚いたことに、検図印に上司のハンコが押してあります。上司は図面を見ていないんでしょうね。教育もしてなさそうです」

「製品メーカーの新人の子が『加工方法を教えてください』ってよく来るんですよ。あのメーカーには加工に詳しいAさんがいるのに……」

(写真:PIXTA)
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(写真:PIXTA)

 かねて私はコラム「トヨタに迫れ!検図の極意」などで指摘してきましたが、やはり日本の製造業の図面品質が落ちているのは間違いないようです。このまま放っておくと、加工も組み立てもできず、製品として造れない図面が出図されてしまうケースが増える恐れがあります。

 今のところは、ものを造る部品メーカーの側で何とか対処できているため、目立った問題が発生していないのでしょう。しかし、今後、部品メーカーでベテラン社員が引退していくと、大変な事態を招きかねません。品質の低い図面でのものづくりには限界があり、大きな不具合が発生する危険性があるからです。

 私は図面品質を向上させるために、製品メーカー側に、図面に対する認識を改めてもらい、図面の描き方や図面整備の必要性をアドバイスしています。これにより、新規に作成する図面の品質は向上します。ただし、今問題となっている製造の内容を改善して図面に反映することは簡単ではありません。

 では、どのようにすればよいのでしょうか。

製造内容を図面に反映させるには

 その製品の製造内容を知っている人の知見を図面にフィードバックする仕組みを整えればよいのです。製造段階で発生する可能性のある問題について部品メーカーが対処法を考え、それをしっかりと製品メーカーの設計者に伝える。つまり、部品メーカーに「製品メーカーに提言できる能力」を備えてもらい、それを図面に反映することで図面品質を高めるのです。

 私は、図面品質が低い原因の全てが製品メーカーにあるとは思っていません。製品の構造が複雑になり、より多くの部品メーカーと付き合わなければならなくなった結果、製品メーカーが全ての検討内容を図面に反映させることが難しくなりました。製品メーカーが協力会社と付き合うための時間も増加しています。こうした状況で「完璧で間違いのない美しい図面を出しなさい」と設計者に要求するのは酷でしょう。

 従って、製品メーカーと部品メーカーが団結して図面品質を高めていく必要があります。そのためには、部品メーカーに製品メーカーに提言できる能力が必要になってきます。私は、製造のことは、やはり製造現場が最も分かっていると思います。設計者がどれほど知識を身に付けたとしても、製造現場の作業者にはかないません。私自身、トヨタ自動車で製造現場のベテラン社員に叱られて育ちました。

 製造現場の作業者が協力し、製造現場の意見を製品メーカーの設計者に伝えていく──。当たり前かもしれませんが、基本に立ち戻ってそれを実施していかなくてはなりません。