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 2020年5月に、トヨタ自動車が2019年度の決算発表と共に2020年度の計画を発表しました。その時、株主から「トヨタ自動車の一人勝ちについてどう思うか」との質問に、豊田章男社長が答えた言葉がとても印象に残りました。「今のこの日本で、一人も勝たなかったらどうなるでしょうか? トヨタが生み出した価値をどのように提供するのかを考えていく」と豊田社長は述べたのです。

 決算での黒字が勝ちで赤字が負けといった単純な話ではありませんが、企業には黒字を出して社会に貢献すること(納税も含めて)が求められます。社会からのこの要請に、トヨタは純粋に応えようとしているだけだと私は思います。では、コロナ禍のこの厳しい環境で、トヨタがなぜ黒字を成し得るのかを考えてみたいと思います。

 黒字を支える最大の武器は、やはり原価低減活動でしょう。私もトヨタで設計者として働いていた時にこの活動に参画し、原価低減の意識と考え方を学びました。この原価低減活動をやり続けてきたからこそ、トヨタは販売台数の落ち込み、すなわち売り上げ減少の事態にも耐える体力を身に付けることができたのです。

 原価低減活動で大切なのは、まず原価意識です。原価への意識はものづくりの上流部門と下流部門とでは大きく異なります。コスト意識は上流部門ほど低く、下流部門ほど高くなっているはずです。コストは技術そのものの優劣や完成度を示す重要なファクターです。設計者が決して忘れてはならないものであり、常日ごろからコストを念頭に置いて考える必要があります。

図1
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 上流部門であっても高い原価意識を持つ必要があります。また、原価には開発費の減価償却も含まれるため、開発工数なども重要な要素になってきます。開発効率を高めるために流用可能な評価は、とことん利用しなければなりません。会議なども効率化していく必要があるでしょう。

原価低減が進まない理由

 続いて、原価の決め方です。皆さんはどのようにして原価を決めていますか。材料費や工数を積み上げていく原価計算の方法では、必ず市場から要求される価格よりも高くなってしまいます。

原価 + 利益 = 販売価格

 この方法では、原価低減はできません。理由は目標がないからです。最初に積み上げた原価が目標であり、その原価は今ある社内の原価のデータベースから算出しているはずです。この状態で原価低減を実施すると、「一律10%低減」といった曖昧な目標を立てることになります。このまま原価低減活動を進めると、結果的に「3%しか低減できなかったが、仕方ない」といった感じで終わってしまいがちです。

 これは本来の原価低減活動ではありません。本来の原価低減活動では、最初に下記の計算式に基づいて目標原価を設定します。

販売価格 - 利益 = 原価

 販売価格は市場が決めるものであり、利益は会社が存続するために必要なものです。ということは、両方とも固定値なのです。原価のみ変動することが可能であり、販売価格から利益を差し引いたものの原価が目標原価となります。設計者はこの原価に収まるように構成する部品や求められる機能などを検討していかなければなりません。