技術伝承編を今回で仕上げましょう。まずは第12回と第13回のおさらいをしていきます。技術伝承の定義は、誰でも使いたいときにコア技術を正しく使えるようになることです。そのためには以下のことが重要です。
[1]コア技術の「見える化」
- (1)製品機能を明確化する。
- (2)技術基準を明確化する。
[2]コア技術のアップデート
技術基準を設定しただけでは、いずれは陳腐化してしまって誰も使用しなくなる可能性があります。それを防ぐために、常にアップデートする必要があります。
こうしたアップデートのフローや仕組みを構築しておくことにより、常に新鮮なコア技術を設計現場が使えるように伝承することができます。
運用方法を明確にする
では、今回のコラムの本題に入りましょう。コア技術を見える化し、常に新鮮なコア技術を使用できる環境を整えても、それで終わりではありません。続いて、[3]コア技術の運用方法の明確化を行う必要があるのです。
運用方法とは、
- ①誰が
- ②どのタイミングで
- ③どのように使用するのか
について模範例を作っていくこと
です。せっかくコア技術があっても、誰も使用しないのでは意味がありません。設計者はコア技術の内容をしっかりと理解した上で使わなければなりません。これを、運用方法を明確化することで支えるのです。
先日クライアントから、社内でこんなやり取りがあったと聞きました。
設計課長:「A君、このユニットを流用しているということは、○○という機能を当社が開発し、世界で最初に市場に投入したことは知っているか?」
設計者A:「全く知りませんでした。面白い機構だなとは思っていましたが、当社のコア技術がこんなところにあったなんて誰も教えてくれませんでしたよ」
設計課長:「そうか。技術伝承と言っても何となく口頭で伝わっているだけだから、知っている人もいれば知らない人もいるんだな。それではダメだ」
設計者A:「課長、そうですよ! 私はコア技術を教えてもらえたら積極的に使おうと思いますし、そこから派生した新しい技術も生まれると思うのです。今回は教えていただいてありがとうございました。また、教えてください」
私はこの話を聞いたときに、やはり技術伝承は設計者が必ず実施しなければならない重要事項だと感じました。若い設計者が自分自身でさまざまなことを創造し、成長していくためにも必須だと言えます。きちんとした技術伝承を行えば、多くの若い設計者が、知らないうちにコア技術を使用するのではなく、コア技術の内容や考え方、使い方をしっかりと理解した上で使えるようになります。