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 新型コロナ禍でありながら、トヨタ自動車(以下、トヨタ)が業績を急回復させています。2020年度(2021年3月期)第2四半期の決算では、販売台数も売り上げも利益も上方修正しました。他の自動車メーカーが苦しんでいる中、「一人勝ち」の様相を呈しています。

 なぜトヨタが強いのでしょうか。業務プロセスや組織風土などを考慮に入れながら、同社出身の設計者の視点から、改めて強さの理由を考えてみました。結論から言えば、次の3つが挙げられます。[1]金太郎飴(あめ)の人材、[2]技術者といえども自由に設計できない、[3]みんなで考える、です。

トヨタの強さの理由
トヨタの強さの理由
(作成:日経クロステック)
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[1]金太郎飴の人材

 先日、トヨタを退職して他の会社に転職した人の講演を聴きました。プレゼンテーション資料の作り方やトヨタへの愛社精神、退職後は世の中に貢献してトヨタに恩返ししたいと思う気持ちなどが、私と同じであることに驚きました。中でも、体系的に物事を捉えることについてはトヨタ出身者の共通点であると改めて認識しました。

 例えば、問題を解決するときにトヨタではA3判の用紙1枚で記載するルールがあります。トヨタに在籍していれば、必ずこの問題解決のフォーマットを使用します。何万人もいる社員の全員が同一のフォーマットを使用するのです。また、「図は下に、表は上に記載する」といった、フォーマットへの書き方に関する細かいルールも定められています。トヨタ自動車の特筆すべきところは、一度決めたルールは全員が守って使用することだと思います。

 例えば、構内の横断歩道を渡るときの「指さし呼称」。トヨタに在籍する全員が行います。一旦停止し、「右よし、左よし、右よし」と声を出して確認してから横断するのです。階段を昇降するときは、必ず手すりを持つと決まっています。安全が全てに優先されるという考えからこうしたルールが決まっており、それを全員が必ず守っているのです。初めてトヨタに来る人は驚くかもしれません。

 話を戻しましょう。同一のフォーマットを使い続けると、社員全員の物事の捉え方や考え方が同じようになっていきます。また、新人研修をはじめ職場で日々、「何のための業務なのか」と聞かれたり、目的と手段の議論をしたりすることで、体系的に物事を捉えることができるようになっていくようです。

 私だけがこう感じているのであれば、トヨタとは関係のない場所で身に付いた考え方やノウハウである可能性があります。しかし、他の出身者も同じ考えなのですから、トヨタで鍛えられた結果なのでしょう。私は、ここにこそトヨタ自動車の強さがあると感じています。

問題解決のフォーマット
問題解決のフォーマット
(作成:筆者)
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[2]技術者といえども自由に設計できない

 トヨタで働いていたとき、日々、私はよくこう言われていました。「自分にしか分からない設計は設計者のエゴである。自分しか知らない、自分しかできない設計ではなく、誰でも分かりやすい簡単な構造で設計せよ」と。要は、トヨタでは設計者であっても自分の思い通りの設計が許されないのです。

 私は自分が所属していたテクニカルセンターだけでこのように教えられているのかと思っていたのですが、どうやら違うようです。というのも、設計とは違う領域でも、全社的に同じような考えで仕事をしていることを知ったからです。つまり、トヨタの社員は、誰もが分かりやすい資料やフォーマット、プロセスを使えば、同じ品質のアウトプットを出せるという考え方で仕事をしているのです。

 なぜかといえば、トヨタでは再発防止策を常に考えるように徹底的にたたき込まれるからです。何か問題が起きたときに、その問題に対処することだけにきゅうきゅうとしてしまうと、その場しのぎの対応になってしまい、同じ問題が再発してしまう可能性があります。それを防ぐために、誰もが分かりやすい資料やフォーマット、プロセスを使用するのです。これは技術職であっても事務職であっても変わりません。