問題の未然防止を考え、問題が発生しないように対応策を設計内容に反映する──。設計者の皆さんは日ごろ、こうした取り組みに努めていると思います。しかし、実は「問題の未然防止の考え方」や「対応策」が、それぞれの設計者の頭の中にしか残っていないのではありませんか。残念ながら、それでは会社の競争力は高まりません。
特にベテラン設計者の中には、過去から最近に至るまでの不具合の事象やクレーム内容が頭の中にたたき込まれており、対応策を1人で検討してしまう人が多いように感じます。このように、問題や対応策が各設計者の頭の中だけに蓄積されてしまうと、そのベテラン設計者しか問題を解決できなくなってしまいます。これがよく言われる「属人化」です。
これを避けるために、ベテラン設計者は問題の未然防止を考え、どのように対応したかについて「道しるべ」を残していく必要があります。独りよがりの設計にならないように、会社にノウハウを蓄積していくのです。
そして、これを実践するのが、問題の未然防止の仕組みである「DRBFM(Design Review based on Failure Modes;故障モードに基づく設計審査)」だと私は考えています。
DRBFMは複雑で時間がかかる?
私はコンサルタントという職業柄、さまざまな企業に入って仕事をしています。DRBFMに対してよく聞くのは、次のような評価です。
- FMEA(故障モード影響解析)やDRBFMは複雑で時間がかかる。
- 時間をかけて実施しても、どれくらい効果があるのか分からない。
- 日常業務が忙しく、DRBFMを実施している時間がない。
- 同じ問題を繰り返してしまうのは設計者の能力の問題である。
このように考えたり思ったりするのは、DRBFMの目的を間違えていることに原因があります。単にワークシートを埋めて、設計内容に対して承認を得るためだけにDRBFMを使っているのが問題なのです。しかし、効果がないと思いながらも、承認を得るために時間をかけてワークシートを完成させているというのが、多くの企業の実態です。
こんな使い方では、せっかく時間をかけてDRBFMの仕組みを構築したとしても効果が少ない上に、設計リードタイムが伸びてしまいます。では、どのように進めていけばよいのでしょうか。
DRBFMの目的を明確に定義し、使い方をきちんと設定する必要があります。まずは目的から考えてみましょう。
[1]DRBFMの目的
DRBFMの目的は2つあります。(1)問題の未然防止と(2)設計ノウハウの蓄積です。
(1)問題の未然防止
設計変更点や条件・環境の変化点に着眼した心配事項の事前検討を設計者が行い、さらにデザインレビュー(DR)を通して設計者が気づいていない心配事項を洗い出す手法です。この結果として得られる改善などを設計・評価・製造部門へ反映することにより、未然防止を図ります。
(2)設計ノウハウの蓄積
過去のDRBFMを確認し、同様の変更点・変化点がある場合は、同じような対応策を検討します。同様の対応策を設定することにより、過去と同等の品質レベルを確保でき、さらには新しい設計領域(同様の変更点・変化点がない領域)の問題の未然防止に力を入れることが可能となります。
このように2つの目的を設定し、設計者が異なっても同様の品質レベルが確保できる仕組みを構築しなければなりません。