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 2019年12月14日、東京・渋谷のビルにデータサイエンティストらが続々と集まっていた。フェンシングの1種目である男子エペで東京オリンピックに出場する日本代表チームを支援するイベントに参加するためだ*1。このイベントは、人工知能(AI)開発を手掛けるLIGHTz(本社茨城県つくば市)が日本フェンシング協会強化本部と共同で開催した(図1)。狙いは、男子エペ日本代表チームの金メダル獲得に向けた支援体制の強化。全国から優秀なデータサイエンティストを集めて組織化するのが狙いだ*2

*1 フェンシングには大きく「エペ」「フルーレ」「サーブル」の3種類がある。エペは全身が、フルーレは胴体のみが打突の有効面。サーブルは上半身だけが有効面だが、突くに加えて斬る攻撃もある。
図1 LIGHTzらが開催した「Fencing Gold medal Challenge」の様子
図1 LIGHTzらが開催した「Fencing Gold medal Challenge」の様子
男子エペ日本代表チームの体制強化を掲げて「Fencing Gold medal Challenge」が開催された。全国からデータアナリストが集まった。(写真:日経ものづくり)
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*2 LIGHTzは2017年から自社のデータアナリストを日本フェンシング協会に派遣し、試合のデータ分析と選手・コーチへのフィードバックを行うなど、男子エペ日本代表チームを支援している。2019年8月に同協会とオフィシャルサプライヤー契約も締結した。

Kinect4台で3Dモデル化

 現在、LIGHTzはニコンと共同で、ピスト(フェンシングの試合場)*3での選手の動きを定量的に可視化・分析する「動態解析システム」の開発を進めている。同システムではカメラで捉えた選手の動きを3Dモデル化し、選手のピスト上の位置や間合い、運動量などを算出。まずは、あらかじめ登録した良好なプレーパターンのデータとの類似度を判定して、選手の動きの良否を判断する機能の実現を目指している。

*3 ピスト
フェンシングのピストの幅は1.5~2m、長さは14m。

 従来はデータアナリストが試合の映像を見ながら、選手の動きを手作業で記録していたため非常に時間がかかった。まずは同システムでこれを自動化する。ゆくゆくは姿勢や動きの適切さを判定したり、動きのパターンからAIで選手同士の相性を見て試合会場での戦略立案を支援する構想を描いている。

 冒頭のイベントは、システム構築に向けた取り組みの一環。試合のデモンストレーションを撮影し、その動きを3Dモデル化した(図2)。集まったデータサイエンティストらは、それを基に現状のデータ収集の課題や、目指すべきシステムに必要な機能などについて議論した。

図2 イベントでのエペ競技のデモンストレーション
図2 イベントでのエペ競技のデモンストレーション
Fencing Gold medal Challengeでは、田尻航大選手(中央大学)と小俣聖選手(同)がエペ競技のデモンストレーションを披露した。(写真:日経ものづくり)
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 イベントで使ったデータ収集システムは、動作解析用カメラ「Microsoft Kinect」4台で選手の動きを点群データとして取得し、合成して3Dモデル化するというもの(図3)。現状のシステムでも30Hz周期のデータサンプリングが可能で、骨格や手の位置などは把握できるという。しかし、細くて動きの速い剣先の抽出などは難しい。剣や防具にセンサーなどを付けられない中で、どうやって精度良くデータを取得し、定量化や解析、試合の流れの可視化につなげていくかなどは今後の課題。イベントではそれらについてアイデアを出し合った。

(a)
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(b)
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図3 動態解析システム
デモンストレーションでは、選手の体と剣の動きを動作解析用カメラ「Microsoft Kinect」で撮影した。(a)はデモンストレーション中に表示していた選手1人ずつの測距データ(点群データ)。距離を色の違いで表示している。点群データを3Dデータ(ポリゴンデータ)に変換し、さらに選手2人の位置関係も加味して表示した(b)。(写真:日経ものづくり)