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トップ選手の思考を再現

 本来LIGHTzが得意としているのは、エキスパートのノウハウを教師データとするAIの構築にある。エキスパートからヒアリングしたノウハウ、つまり知見や思考回路(考え方)を「ブレインモデル」と呼ぶネットワークとして表現するのが特徴だ。暗黙知となっているノウハウを引き出し、それを知見のつながりとその関連度合いとして表すことで、若手や次世代がエキスパートのノウハウを活用できるようになる*4

*4 LIGHTzはこれを「汎知化」と呼ぶ。

 同社はこのAIを製造業の技能伝承を念頭に開発したが、近年ではスポーツ分野での活用を進めている。一流選手のプレーにおけるノウハウを可視化して伝えることで、選手の強化や次世代の育成に役立てようというのだ*5

*5 筑波大学と共同で、野球やバレーボール、サッカーを対象に汎知化の共同研究を進めるとともに、フェンシング、サッカー、バレーボールの3種目において日本代表チームや日本代表選手の支援事業を展開している。

 前述の動態解析システムでも、収集したデータの可視化の部分でこのブレインモデルなどのAI適用を検討している。実はフェンシングでは既に、動態解析システムの構築に先行してブレインモデルの活用が始まっている。具体的には、世界ランキングトップ50人の「相性」を分析するツールである。男子エペの日本代表チームのコーチ2人にヒアリングし、一流選手の攻守の知見や考え方をブレインモデル化。それを基にLIGHTzが開発した。

 スポーツでは、格下でも「このプレータイプの相手は苦手」、格上の相手でも「このプレータイプで挑めば勝てる」といった「相性」がある。開発したツールを使ってあらかじめ相性を分析しておけば、対戦相手に応じた戦略を試合の現場で立案できる。

 ツールの開発に当たっては、体格や姿勢、戦い方など選手の特徴を表す数十項目を洗い出し、その重要度をブレインモデルで分析。各項目のデータを入力したトップ50人を幾つかのタイプに分類し、タイプごとの相性を分析できるようにした*6。このツールは2020年春に実戦投入し、東京オリンピックでも活用する予定だ。

*6 選手50人の項目データの入力は、試合のビデオなどを見ながらアナリストが手作業で行った。