東京オリンピック・パラリンピックでは、来場者や大会運営スタッフなどを支援するさまざまなロボットが活用される。その1つが、トヨタ自動車が開発した自律走行ロボット「FSR(Field Support Robot)」(図1)である1)。
重量物を回収するスタッフの労力軽減
FSRは、陸上競技の投てき種目でハンマーややり、円盤などの投てき物*1を回収・運搬する作業をサポートする。同社が工場内で使うAGV(無人搬送車)向けに開発した技術を応用している。
陸上競技で、物を投げてその距離を競う砲丸投げや円盤投げ、やり投げ、ハンマー投げなどの種目を総称して「投てき」という。これらの競技で選手が投げる砲丸や円盤などを「投てき物」と呼ぶ。
FSR開発の狙いは、陸上フィールド競技をサポートする運営スタッフの労力低減だ。ハンマー投げを例にとると、投てき物であるハンマーの質量は男子で7.26kg。現状ではこのハンマーを、まずは落下地点からファウルゾーンまで運営スタッフが手作業で運び出し、さらにラジコンカーを使って所定の位置(選手の投てき位置近く)まで戻している。7kg以上にもなる重量物を運ぶ労力に加えて、「数十m先を走るラジコンカーの操作が意外と難しい」(トヨタの開発担当者)。
これに対してFSRを活用したプロセスでは、運営スタッフが投てき物を運ぶ距離を落下地点からFSRに積み込むまでの2m程度まで縮められる。FSRは自律走行する機能を持っているので、ラジコンカーのように操作するスタッフはいらない。走行経路に人や障害物があれば、自動で回避する。
具体的なプロセスとしては次のようになる(図2)。運営スタッフとFSRはフィールド上の待機位置で競技を見守っている。投てき物が落下すると、スタッフはそこまで小走りで向かう。その際、FSRは自律走行で追従していく。投てき物の落下地点では、スタッフが投てき物を持ち上げてFSRに載せる。すると、今度はFSRが単独で投てき位置付近まで自律走行していく。投てき位置では別のスタッフがFSRから投てき物を回収。その後、FSRは待機位置まで自律走行で戻る*2。
LIDARで地図を作成、カメラで認識する
自律走行を実現するために、FSRは3個のカメラモジュールと1個のLIDAR(レーザーレーダー)を搭載している(図3)。カメラモジュールには、可視光カメラと赤外線ステレオカメラを搭載。2種類の可視光カメラで物体の存在を認識し、赤外線ステレオカメラで物体との距離を把握するなど組み合わせて使う。
運営スタッフに追従して自律走行したり、障害物を回避したりするのはカメラだけで実現する。人や障害物などの物体の認識には、トヨタが開発したAI(人工知能)で精度を高めた。特定の人物に追従するのではなく、FSRに最も近い場所にいる人を追いかける仕組みにした。トヨタの開発担当者によると、「前方7m以内にいる人の存在を認識し、4mほどまで近づいてきた人を追従する対象としてロックオンする」という。ロックオンすると、FSRから対象者に近づいて2mの距離を保つように自律走行する。
LIDARは、FSRがいる位置(自車位置)の推定や走行経路の構築に必要な地図の作成に使う。人への追従や障害物を回避する用途でLIDARを使わないのは、「LIDARはデータの処理負荷が高く高性能なコンピューターが必要になってしまう」(同担当者)ためだ*3。