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 桜前線があたたかさを運ぶ─。東日本大震災の被災地で得たひらめきが桜の花色をイメージしたアルマイト仕上げや継ぎ目のない押し出し成形に結実した。金属成形と燃焼装置のメーカーが力を発揮した「東京2020聖火リレートーチ」。デザイナーに話を聞いた。(聞き手は中山 力、木崎健太郎)

写真:栗原克己
写真:栗原克己
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 オリンピック・パラリンピックは、アスリートの方々だけでなく、デザインの世界にとっても大変に特別な機会です。2013年に東京への招致が決まったとき、何らかの形で関わりたいとの強い思いが芽生えました。

 その思いを抱いていた2015年に、福島県南相馬市の小学校を訪ねる機会がありました。復興のための取り組みの一環で、子供たちと一緒に桜の絵を描くイベントです。桜が咲く時期になると、日本では何となくみんなあたたかな気持ちになり、それが桜前線の北上とともに伝わっていく。そんなイメージの聖火リレーができたら、災害の重なった日本にとって再起や復興の象徴になるのではないか、という着想を得たのです。

桜のイメージをトーチに

 いいアイデアが浮かぶと、それを形にして見てみたくなるのがデザイナーです。2015年の時点では、聖火リレートーチでデザイン公募があるか分かりませんでしたが、とにかくアイデアを形にしようと模型を作ったり、3Dプリンターで造形してみたりし始めました。

 既にそのころから、今までにない方法で造りたい、と思っていました。具体的にはアルミニウム合金の押し出し成形です。一体で成形するから継ぎ目のない造形ができる。桜のイメージといっても、花びらを1枚1枚造って組み上げるのでは、何か違うと思っていました。

 アルミの押し出しでの製造は原理的には可能なはずと見当をつけていましたが、それなりの個数を造る必要もありますし、現実的に出来るものかどうかは専門メーカーに聞かなければ分かりません。そこで押し出し成形を手掛けるさまざまな会社の方々にお会いしました。

 その時はまだ聖火リレートーチだと言えませんから、照明器具の企画などと説明していました。数十社を回って、「できない」という会社もあれば、できると言いながらもそこまでの熱意を感じられない会社もありました。歴史に残るものなので、単に仕様通りに造るというより良いものを育てて造ろうとしてくれる情熱が必要だと思っていました。そこを「できると思う。ぜひやりたい」と言ってくれたのがUACJ押出加工(本社東京)でした。

 形を決める過程では、何種類も試作しました。燃焼機構を内蔵するスペースを確保した上で、花びらを大きくしたり小さくしたり。花びらをあまり大きくすると、中の機構のスペースが小さくなりますので、どこが限界なのかを探りました。このあたりは理屈だけでは決まらず、今日は太く感じても、明日は細く見えるかもしれませんし、調整しては造ってみるのを繰り返しました。炎をどこから出すかといった要件も、細部までは決めていませんでしたから、一緒に造り込んでいきました。

現場でアルマイトの色を調整

左がオリンピック用、右がパラリンピック用。
左がオリンピック用、右がパラリンピック用。
(写真:東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)

 色についても、最終的に決めるまで合計で300種類くらい造ってみました。仕上げはアルマイト(陽極酸化)処理で、桜色にも金色にも見える、今までにない色を出したかった。色の見え方は屋内と屋外では全く変わりますし、天気が晴れか雨かによっても異なります。実際に造って、様々な場所で見てみなければ良いのかどうか分かりません。

 工場の現場に行って、色の配合や処理条件を少しずつ変えてもらいながら調整しました。染色する現場に行ってみると担当の方の苦労がよく分かると同時に、可能性についても分かります。そもそも、どういう色ならば良いのかの基準が当初は必ずしもはっきりしていたわけでもなく、作業者の方と工夫を重ねていく中で分かってくることがいろいろとありました。

 太陽光は、光の中でも特殊なものだと思います。室内から外に持ち出すと、全く違った見え方になる。当時はまだ秘密で進めている時期でしたから、トーチそのものの形を工場の外に持ち出すわけにはいきません。四辺形のテストピースを使って「もう少し赤みが欲しい」といった検討を繰り返しました。

 最終的な色が決まったのは2019年の発表直前でした。オリンピック(桜ゴールド)とパラリンピック(桜ピンク)で2色に分けたのは最初からの方針です。オリンピックで桜が咲き始め、パラリンピックの頃に満開になるイメージ。ですから、パラリンピックのトーチをやや赤みが強い色にしています。

仮設住宅のサッシ材をリサイクル

 素材についても、面白いことができないかと思っていたところ、リサイクル材の話を聞きました。LIXILが担当した仮設住宅のサッシが役割を終えて解体されるから、それを使えるかもしれないと。素晴らしいことだと思ったので、これを30%入れたアルミ合金材をトーチ製作に利用しました。

 押し出し成形した後、一部を切り取って花びらのように見える部分を残します。この切削加工もすぐにはできませんでした。切削加工後に所定の形状を得られるような、押し出し成形時の断面形状を微妙に調整する工夫も凝らしてもらいました。

 軽量化のため、押し出し成形品の板厚はどんどん薄くなりましたので、その分も切削加工は大変になりました。実は私自身は、ある程度の厚みがある方が高級感が出るし、軽いほどよいとも思っていなかったので、当初のデザインには2.5mm程度の肉厚がありました。ですから、それなりの重さがあった。一方で平昌オリンピックのトーチは1.6kgぐらい。それよりはだいぶ軽くしたいという気持ちで肉厚を減らしていったのです。

 最終的に肉厚は1.1mm、きょう体の重さは約1kgになりました。ガスのボンベ200gと合わせて約1.2kgです。歴代のオリンピックの聖火リレートーチの中でも軽い方。歴代トーチにはかなり小さいものもありましたから、全体の大きさに比べたらかなり軽いといえるでしょう。炎が遠くから人に見えるようにしたかったので、全体の大きさは必要でした。