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 毎年起きる災害に備えて、人工衛星からの観測を活用する動きが加速している。災害発生箇所と被害状況を観測し、避難情報などの提供につなげる。状況を把握する方法には、人工衛星や航空機、ドローンを利用した観測や、人力による地上調査などがある。その中で、昼夜を問わず、悪天候でも災害をいち早く観測できる合成開口レーダー衛星(SAR衛星)が欠かせない技術になりつつある。ここに来て、SAR衛星の弱点を補うサービスが民間企業から登場するなど新たな展開が始まり、関連事業や参入企業も広がりつつある。災害に強い社会の基盤の1つとなる、迅速で的確な避難情報提供に不可欠な合成開口レーダーについて、2回にわたって紹介する。

 夜中に襲った台風による土砂災害の被害状況をいち早く明らかにして、的確な避難情報の提供につなげたことで注目を集めている合成開口レーダー衛星(SAR衛星)注1)。土砂災害に限らず。浸水被害、地盤沈下、火山噴火による火口付近の隆起、山体膨張、海上での重油などオイル流出、地面の急な陥没などの災害の観測にも使える潜在能力を持つ。

注1)SARはSynthetic Aperture Radarの略

 土砂災害へSAR衛星を活用するきっかけとなった事例に、2011年9月の台風12号時の土砂災害緊急調査がある。2011年9月3日に日本へ上陸した台風12号は「紀伊半島大水害」の甚大な被害をもたらした。奈良県と和歌山県で、大量の土砂が川をふさいで水の流れをせき止める「河道閉塞(天然ダム、土砂ダム)」を発生させた。発生箇所は17カ所に及んだ(図1)。

図1 2011年9月3日に日本へ上陸した台風12号は紀伊半島に甚大な被害をもたらした。大量の土砂が川をふさいで水の流れをせき止める「河道閉塞」の発生箇所は17カ所に及んだ(出所:平成23年9月13日国土交通省発表「台風12号の豪雨に伴う河道閉塞箇所数について」)
図1 2011年9月3日に日本へ上陸した台風12号は紀伊半島に甚大な被害をもたらした。大量の土砂が川をふさいで水の流れをせき止める「河道閉塞」の発生箇所は17カ所に及んだ(出所:平成23年9月13日国土交通省発表「台風12号の豪雨に伴う河道閉塞箇所数について」)
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 河道閉塞の検出については、航空機によって観測する方法が以前からあった。しかし、夜間かつ悪天候の時には使えない。そこで選ばれたのがSAR衛星だった。日本の衛星ではJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「だいち1号」が合成開口レーダー「PALSAR」を搭載していたが、あいにく4カ月前の2011年5月に運用を終了していて、観測することができなかった。そこで、ドイツが運用する衛星に観測を依頼することになった。

 斜面の深層崩壊が発生していた2011年9月4日の深夜に撮影計画を作成。翌9月5日未明に緊急観測のオーダーを発し、同日18時前には観測データを地上局で受信した(図2)。その日の深夜からデータの判読を開始し、9月6日の午前1時半ごろ判読を終えて、10カ所の天然ダムを見つけ出した。同日夕方には国土交通省から緊急調査の結果が発表され、奈良県五條市、同十津川村への避難指示につながっている。

図2 2011年9月5日、台風12号による土砂災害の被害状況を表す観測データがSAR衛星から送られてきた(出所:国土交通省「ALOS-2により開かれた土砂災害調査への衛星の活用」)
図2 2011年9月5日、台風12号による土砂災害の被害状況を表す観測データがSAR衛星から送られてきた(出所:国土交通省「ALOS-2により開かれた土砂災害調査への衛星の活用」)
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◎参考資料
国土技術政策総合研究所の研究資料(PDF)
国土交通省「土砂災害への対応における衛星の活用について」(PDF)
国土交通省の報道発表資料「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律に基づく緊急調査について」

 台風12号の悪天候の中で、9月5日の14時半ごろには国土交通省のヘリ調査により天然ダム1カ所が確認されている。この情報はその後のSARデータ判読の手がかりにもなっているが、悪天候の中の航空機観測には大きなリスクがあり、また夜間では地表の様子が見えない。日没近い時間に広域を観測し、データを降ろして解析することができたのは、SAR衛星だからこそといえる。

 旧建設省時代から土砂災害対策の研究を長く続けてきたリモート・センシング技術センター(RESTEC) 研究開発部特任参事の清水孝一氏は、「一般的に大規模な自然災害の場合、国土交通省の地方整備局がヘリで初動の調査を行う。しかし、紀伊半島大水害では降雨が長く続き、有視界飛行のヘリでは調査ができず、また広範囲の観測も難しかった。SAR衛星は、これまでの手法では観測できない時間帯にも対応できる。さらに、広い範囲を観測することで、これまで見落としていた被害が見つかることが分かった。現場でのインパクトが大きかった事例だと思う」と語る。