全3121文字

ITの活用で工程を短縮

 ギアやシートといった部品メーカーは、生き残りの施策として“自らのポジションを明確にする"といった取り組みが多い。世界中の多くの自動車メーカーから認められる技術や製品を確立することで、対等な位置付けを狙う。ギア部品を手掛ける武蔵精密工業注7)はそのような企業の中の1社だ。

注7)武蔵精密工業はトランスミッションギアやカムシャフトなどの部品を手掛けるメーカー。売上高は2559億3400万円(2019年3月期)。従業員数は1万6839人(2019年3月31日現在)。ホンダが株式を25.12%(2019年3月31日現在)所有する関連会社。

 同社が取り組みを始めたのは約10年前のことだ。リーマンショックをきっかけに、自動車メーカーから図面を受け取り、部品を製造するだけの事業からの脱却を検討し始めた。当時はまだホンダ系列の部品メーカーとして安定しており、売上高におけるホンダの比率は約9割あった。それでも、「系列だからいつまでも買ってくれるという関係は長続きしない」(武蔵精密工業社長の大塚浩史氏)との危機感があったという。

 そこで同社は強みをギアの部品に絞り込み、付加価値を高めるための設計・開発力と提案力の強化に乗り出した。これが後の電動化の波と合致した。EVの需要が増えればトランスミッション用のギアのニーズは減少するが、モーターを駆動装置として使うための減速機向けのギアのニーズは反対に増える。そのギアに焦点を絞り、求められる性能要求への対応を付加価値として提案した。

ギアの需要を見据え電動車向けの減速ユニットを設計(武蔵精密工業)
ギアの需要を見据え電動車向けの減速ユニットを設計(武蔵精密工業)
(出所:武蔵精密工業)
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば、電動化が進むとエンジンの騒音が低下し、ギアがかみ合う時に発生する金属同士がこすれる音が目立つようになる。そのため、静音性が高いギアが必要となる。回生ブレーキといった新たな機能の登場も、ギアに求める性能を変える要因となった。従来のギアは一方の方向に回転する動きを考慮して設計していたが、電動化時代のギアには回生ブレーキ時の逆方向の回転も考慮した強度設計が必要となる。

 現在同社は新たな付加価値として、開発スピードの向上に力を注ぐ。特に中国では、通常5年かけるクルマの開発を2年で実施するというケースが少なくない。このスピードに対応できるよう工程を見直し、開発フローの半減を目指す。

 特に時間がかかるテストと試作の工程では、シミュレーションソフトを活用する。モデルベースを作成して強度を解析。従来何週間もかかった強度計算の工程を1日に短縮した。

 試作では、ソフトとハードの両面から工程の短縮を目指す。例えば、シミュレーションを活用することで試作回数を減らす。さらに、金属素材で成形する3Dプリンターを活用し、部品の大まかな評価に役立てることにも取り組む。通常、3~4カ月かかる試作部品の製造期間を、1~2カ月に短縮する。

 武蔵精密工業は、次世代を見据えた部品を開発するために、需要の先取りを実施している。同社はイスラエルの新興企業や米国のベンチャー企業に出資し、ギアに対する新たなニーズを探る(図6)。

[画像のクリックで拡大表示]
図6 クルマの新しい形を自ら探る(武蔵精密工業)
図6 クルマの新しい形を自ら探る(武蔵精密工業)
(a)イスラエルの新興企業REEが開発したスケートボード型の電気自動車(EV)プラットフォーム。インホイールモーターを採用し、減速機などをホイール内に集約している。(b)米国のベンチャー企業のZimenoが開発した電動スマートトラクター。武蔵精密工業はこれらの事業への出資などを通じて、次の世代の新たなギアの需要を探る。(出所:上はイスラエルREE、下は米Zimeno)
[画像のクリックで拡大表示]