納めた税金をきちんと使ってほしい。納税者はこう考える。前回の本欄で「自治体システム1700個問題」を取り上げた。1700以上ある自治体が情報システムを個別に持つのは非効率、という問題である。1700個のシステムは納税者の税金によって維持されている。
関連記事: 2023年は正念場、自治体システム標準化に向けて現役の県職員が提言問題提起をした私の立場について前回記事に「本稿の執筆は官公庁の情報システムをより良いものにする情報政策研究の一環であり、私個人の意見である」と書き、さらに「研究をする傍ら、神奈川県庁の職員として、メインフレームの運用管理、システム開発・運用・保守(中略)などに従事してきた」と続けた。
個人の意見としたものの私は自治体職員である。編集部が付けた題名にある「現役の県職員が提言」は間違いではない。とはいえ問題提起をしたのは納税者としての疑問からだった。同じ名前の業務でも自治体ごとに違いがあるので1700個ばらばらのシステムがある。これを聞いて納税者が納得するとは考えづらい。何よりも納税者としての私が納得できない。
ありがたいことに拙文を自治体の職員、自治体システムに関わりがあるIT企業関係者が読んでくださり、色々な経路から感想や意見を頂戴した。情報システムに知見を持つ方が「自治体システム1700個問題」に引き続き関心を寄せていただけたらと思う。
私なりにできることをやり、この問題に取り組んでいくが、納税者の方は自治体をはじめとする公共システムに関心を持ち、無駄なことにノーと言ってほしい。技術者の方は「今の技術ならこんなことが可能だ」と意見をぶつけてくださるとうれしい。
IT企業のプロジェクト遂行能力を見極めたい
自治体や官公庁のシステム問題は他にもある。開発プロジェクトの失敗だ。国民、住民サービスを提供するシステムはもちろん、内部の事務システムであっても開発の失敗は国民、住民の損失になる。
開発は何とか終わり、システムが動き始めたとしても抜本的な国民、住民サービスの向上や行政の業務効率化が実現できなかったらどうか。最新のOSやミドルウエア、あるいはクラウドを使っていても、従来の業務を再現しただけであったら、税金の使い方として妥当なのか。
これらは情報システムを使うすべての組織にかかわる問題だが、情報システムの調達改善や開発プロジェクトの成功率向上を研究してきた、情報政策研究者としての私見をお伝えする。
自治体を含む官公庁の場合、情報システムの開発や運用は公共調達を通じてIT企業に委託することがほとんどだ。公共調達には4大要請がある。公正性、透明性、経済性、履行の確実性である。4大要請に応えるために、官公庁では提案を依頼するRFP(Request for Proposal)を出す時、受注者選定の審査基準を定め、公表する。民間企業でも、審査基準を公表する必要はないとはいえ、公正性や透明性が問われる時代になっている。