「バラを下さい」と頼んだら「今から種を植えるので来年までお待ちください」と答える花屋があったらすぐ潰れるだろう。逆に1000通りのバラの花束を常時保管している花屋も廃棄が多くて潰れるだろう。
つまり在庫を完成品(花束)で持つのか、材料(バラ)で持つのか、原材料(種)で持つのかによって、管理の仕方や業務が変わってくる。これらはビジネスモデルの違いに基づく。図に示すように売れる量を見込んで完成品を仕入れる在庫販売、受注に応じて材料から完成品をつくる受注生産などがある。
受注生産の流れは①受注、②組み立て指示、③組み立て作業、④出荷準備、⑤出荷となる。花屋はかなり複雑な受注生産であり、店頭販売あるいは納期が近いときは自社の花在庫から花束を組み立てる。納期がある程度先の受注の場合、納期に間に合うタイミングで花を発注し、届いてから花束に組み立てる。
発注してから入荷するまでの日数を発注LT(リードタイム)と呼ぶ。入荷予定日は通常、発注時に花卸から知らされる。花の種類ごとに発注LTは異なる。卸市場に自ら出かけて仕入れる花屋さんも多いがその場合、発注LTはゼロ日である。
在庫管理は数量と時間を管理することだと述べた。時間の一例が発注LTになる。基本的なやり方を図にまとめてみた。
現在の在庫の数量だけを見ているだけでは受注してよいかを判断できない。バラの在庫が10本あったとしても別の受注で既に出荷する予定になっている可能性がある。これが引当済(ひきあてずみ)在庫(受注残)である。受注可能な有効在庫は現在庫から引当済在庫(受注残)を引いた残りになる。
図中の発注残(予定在庫)は「予定通り入荷すれば販売できる数量」である。その不確定な在庫まで受注予約を許すか否かは企業によって差がある。国内の生産予定は受注受付するが海外の生産予定は受注しないというやり方もある。輸送事故や入管リスクで顧客に迷惑をかけないためだろう。
ざっと見ていただいた通り、在庫管理はかなり複雑で、しかもお客様のビジネスモデルごとに違いがある。文章で書かれた要件定義書あるいは在庫管理の教科書だけで学び、理解するのは難しい。そこでモデルの出番である。
参加者の目の前でモデルを描く
筆者が理事長を務めるNPO法人、IT勉強宴会の会合に、尊敬する設計者や技術者を招き、花束問題を解くためのモデルを設計してきてもらい、場合によっては動くシステムまで実装してもらった。
花束問題のモデル作成を実施したのはIT勉強宴会の第39回(2015年2月、2名が発表)、第40回(2015年4月、2名)など。動くシステムの実装までやっていただいた回として第44回(2015年9月、5名)、第47回(2016年1月、2名)などがある。中にはDDD(ドメイン駆動設計)のモデルまであるのでIT勉強宴会のブログで興味がある回を探し、読んでみることをお勧めする。