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 子供から突然『犬のおまわりさん』をリクエストされたコンサートピアニストが「楽譜がないから弾けません」と言ったらどうだろう。プロの演奏家として頼りない気がしないだろうか。

 高層ビルの設計を依頼された建築家がこのように嘆いていたらどうだろう。「顧客の要望が曖昧過ぎて困る。なにしろ柱の場所も鉄筋の数も断言してくれない」。具体的かつ詳細な仕様の提示を顧客に求め、要望された通りにビルを建てようとする建築家がいたら、頼りないどころか怖くないだろうか。

 例えば「簿記」のように基本的かつ具体的なリクエストが出されたら、楽譜なしで『犬のおまわりさん』を弾くように手早く実装して動かす。要望が曖昧であっても、経験に基づいて適切に補完しつつ、顧客が喜ぶシステムを設計して完成させる。それくらいの実力がなければ、高度専門職として顧客から信頼されることはないだろう。

 そのためには「ソフトウエアの適用分野に関する専門性(土地勘)」と「プログラミング言語やフレームワークなどの実装技術(適用分野向けにあつらえた道具立て)」の両方をバランス良く、かつ効率的に身に付けなければならない。

 そして、それらの専門性を獲得するための時間を捻出するには、実装技術の合理化が欠かせない。前回記事でそう説明した。

 ではソフトウエアの適用分野固有の専門性とは何だろう。今回はそのことを説明したい。

企業情報システムにおける専門性は3点ある

 読者の多くは「企業情報システム」という「ソフトウエアの適用分野」に関わっていると思うので、そこにおける専門性が何であるかを確認しておこう。「簿記を含む多業種向けの業務知識」「システム要件を具体的な設計仕様に落とし込むスキル」「システム開発に最適化された実装スキル」、これら3点が企業情報システムの専門性だと筆者は考える。

 さまざまな業種・業務の組織によって利用されるからには、まずは業務知識が求められる。すべての業務知識を学ぶことはできないが、なるべく多くの業種・業務向けの案件を経験することをお勧めしたい。多く知るほど、他の業種向けの知識も学びやすくなる。

 さまざまな業務知識を効率よく学ぶ鍵はなんといっても簿記である。企業情報システムは企業会計と連係するので、仕訳や決算に関わる知識は全ての業種で必要となるし、知らない業種向けの学びを始めるための基準線になってくれる。開発者が顧客にヒアリングをする際、業種固有の事情を知らなくても顧客は案外気にしないが、簿記の用語が通じないとなるとなかなか信頼してもらえない。この意味でも簿記の学びは欠かせない。