企業が取り組む喫緊のテーマとして経営管理の見直しは上位に入るはずだ。経営管理とは予算管理ないし管理会計を指す。現場が「今年はこれだけ売ります。そのために経費をこう使いますから粗利はこうです」と予算を立て、その後の実績を各層のマネジャーひいては経営者に順次報告する。マネジャーや経営者は報告を受けて適宜指示を出す。
経営者は年間を見通した「着地見込み」を気にする。最終的にどうなるのか、見込みの精度を高めたい。投資家は業績予想を重視しているし、世界のどこかで始まる事件を契機に経済環境ががらりと変わるケースが増え、変化への適応が重要になっている。
マネジャーも担当範囲の業績を見通し、変化に適応しつつ、うまく着地するように指示を出したい。予算を作りっぱなしにするのではなく、四半期に1回程度見直したり、見込みや見通しを調べて月次で調整したりしていくことが多くなっている。
ところが多くの企業の実態を見ると見込み通りに行くように何をどう調整できるのが判然としない。当初出てきた予算の妥当性のチェックにすら苦労する。数字は本社の経理あるいは企画の部門が取りまとめるが事業部門ごとの実績は分かっても内訳がよく見えず、現場に「どうなっている」といちいち尋ねるしかない。
経営トップやマネジャーは計器無しで雲の中を飛んでいるようなものである。こうなるのは経営管理システムが本社の実績取りまとめと分析を効率化し迅速化することを主眼に構築されているからだ。現場部門は予算、見込み、実績といったデータの入力担当にさせられており、期首や期末になると企業によっては部門総がかりで数字を出し合って入力するが鉛筆をなめていることもあり見込みの精度はそれほど高くない。一方で予算や見込みの数字を組み立てるプロセスや根拠となるデータについては経営管理システムの対象外になっていることが多い。
事故が起きる前に経営トップやマネジャーに計器を渡さなければならない。いや、もう事故は多発しているのではないか。期末が近づいて「なぜ足りない!」と経営トップやマネジャーが怒っている様子を見聞きしたことがないだろうか。
現場力を喚起する経営管理に取り組もう
事業の活動は現場で起きる。現場に経営管理ができるツールを提供し、自主性を尊重しつつ、現場の知識とそれが反映されたデータを経営トップにまでつなぐべきだ。現場を入力係にとどめておくのはもったいない。
現場の経営意識が養われれば事業全体に寄与し、売上予測の精度が高まる。経営トップやマネジャーは現場と意思疎通を図り、活動や施策をどう制御できるかを知った上で変化に応じて事業の軌道を修正していける。
この考えを私たちは「現場力を喚起する経営管理」と名付けた。そのコンセプトは次の2点である。
●現場の活動に即して計画(予算)を立てる。
●計画(予算)・見込み・実績の数字を、活動を担う現場の人々が理解でき、活動との対応が明瞭な形で表現する。