全5302文字
PR

 新しいビジネスをつくり出す。すでにあるビジネスをもっと強くする。この2点が今求められていることだと私は考える。新たなインカムを生むビジネスを創出し続けないと企業として存続できない。現在のビジネスをより強くし、拡大し続ける必要もある。

 世間で騒がれているデジタルトランスフォーメーション(DX)もどちらかを指している。DXという言葉が消えても求められる2つのミッションは変わらないだろう。

データモデルをビジネスの俯瞰(ふかん)に使う

 新規事業の開発やビジネス改革のやり方についてさまざまな提案がなされている。私はビジネスを俯瞰(ふかん)する手法としてデータモデルを使うことを提案したい。

 データの関連を描いたモデル、それをつくるデータモデリング、私が長年使ってきた道具であり手法である。ざっと40年間、曲折はあったが企業情報システムの世界でお世話になってきた。データに関わる仕事にこだわってきたため、データベースの見直しやデータモデリングの際、いまだに声をかけていただけるので、この世界にしぶとくかじりついている。

 データモデルはデータベースあるいはシステムの設計のためにつくられた。この役割は今後も変わらない。本連載の前回に書かれていた通り、データモデルを用意し、ローコードツールを使えば高速で情報システムを構築できる。データモデルの効果がすぐに見える形で現れるので画期的と言える。

関連記事 データモデルがあれば担当者1人でも基幹システムを内製できる

 これに加え、ビジネスの実務者がビジネスを創出したり強くしたりするときにもデータモデルが有用だと考えている。

 いきなりビジネス創出というと敷居が高いので、ビジネス上の課題を発見、発掘し、その対策を見いだすと言い換えて説明する。

 まず、自社あるいはグループ企業にとって現状のビジネスの根幹となっている顧客、商品・サービスは何かをしっかり把握する。その運営を担う製造現場や、物流部門、直接顧客と接する営業部門といった社内組織の構造と役割も捉える。このとき、顧客や商品・サービスを表すデータの関連をモデルとして描けば全体を俯瞰しやすくなる。

 全体を見渡して課題を発見したらビジネスを再定義する。自社にとって真の顧客はだれか、根幹となる商品や付帯するサービスは何か、といったことを考え、データモデル上で組み直す。再定義したモデルに基づいて新たな商品やサービスを開発、提供し、そのための組織を作り上げていく。新たな情報システムも用意する。

 新ビジネスの創出にまで至らなくても、課題を見つけ、対策のためにデータをうまく使えればビジネスを強くできる。データを使い回すことが経営の肝と言われる時代である。現状を正しく把握し、必要とするデータの所在を確認し、データ活用基盤を整備する。その時にもデータモデルが欠かせない。

エンティティーを抽出し、関連を描く

 ビジネスの全体像をつかむには、データエンティティーを抽出し、関連を描いてみることが手っ取り早い。例として掲げたのは中間品を仕入れて量産品を製造し販売する企業のデータモデルである。箱に入っている「顧客」や「品目」「在庫」などがエンティティーになる。実線が依存関係、破線が非依存関係を示す。例えば、「社員」は必ずどこかの「組織」に従属するので実線で結んでいる。

ビジネスを俯瞰できる概念データモデルの例
ビジネスを俯瞰できる概念データモデルの例
[画像のクリックで拡大表示]

 こうしたモデルを描けば、法人や個人の顧客の構造はどうなっているか、B to B(企業向け)ビジネスの場合、販売店の先の消費者までを相手にしないといけないのか否かなど、自社ビジネスを取り巻くリソースとそれらの関係が明らかになってくる。