全3317文字
PR

 宇宙ビジネスが進化している。発信した電波の反射を利用する「合成開口レーダー」(SAR:Synthetic Aperture Radar)。悪天候で雲がかかっていても、深夜で日が差さない場所でも地表を観測できる。技術革新で小型化が進んだSARを活用した新たな人工衛星ビジネスが世界各国で勃興しているのだ。連載第2回では、SARで地表を24時間いつでも観測できる仕組みについて詳説する。

 どんな状況でも地表を正確に計測できるSAR。その原理を簡単に説明しよう。

 光よりも波長がずっと長い電波を使うレーダーはそのままでは細かい物体の画像を得られない。光学望遠鏡で解像度を高める際に、光学系の口径を大きくする必要があるのと同様に、レーダーもアンテナを大きくすれば解像度を高められる。逆に言うと、人工衛星に搭載できるくらいのアンテナサイズの電波観測では十分な解像度を得られない。

日本のSynspective(シンスペクティブ)が開発中のSAR衛星「StriX-α」
日本のSynspective(シンスペクティブ)が開発中のSAR衛星「StriX-α」
Xバンド(8G~12GHz帯)の電波を使う合成開口レーダーを搭載。2022年には6機体制でサービスインを予定している。将来的には25機体制を構築して世界中の任意の地点を1日1回は観測できるようにする(出所:Synspective)
[画像のクリックで拡大表示]

 これを解決するのが干渉演算だ。2つ以上の異なる場所から同一対象を観測したデータを用意し、干渉演算を行う。すると2つの観測地点間の距離と同じサイズの超大型アンテナと同等の解像度のデータが得られる。電波望遠鏡の観測でも使われている技術で、仮想的にアンテナのサイズ(開口)を拡大するのと同じ効果を得るから「合成開口」レーダーと呼ぶわけだ。

 合成開口レーダーでは複数地点から同一地点を観測したデータが必要になる。そこで使われるのが高速に移動できる航空機や衛星である。SAR衛星は地球を回る衛星軌道を高速で移動しながらパルス電波の放射とその反射波の受信を繰り返す。これにより異なる多数の観測地点から同一地点を観測したデータを大量に得られる。さらに軌道を少しずつずらしながらこれを繰り返せば、地球を帯状に区切って高分解能で観測した地表のデータが得られる。

 このとき衛星の進行方向に対して直角の方向への分解能は、発射する電波のパルス幅で決まる。SARでは、発射パルスに周波数変調をかけ、受信した信号を基準信号と合わせて処理し、仮想的にパルス幅を小さくする「パルス圧縮技術」を用いて高分解能化を達成している。

雲を通した観測、地下の観測も可能

 SARの利点は雲があっても下の地表を観測できることだ。地球は雲が多い星なので、雲を透過しない可視光や赤外光を使う地球観測衛星は、雲の有無で観測できるか否かが左右される。それに対して電波は雲を透過するので、雲の有無に左右されずに観測できる。さらにSARのような能動センサーは検出対象の情報を含む信号が微小でも大きな出力電力が得られるので、夜間でも観測できる。使用する電波の波長によっては、土中まで電波が浸透し、反射するので、地下水や地下鉱物の分布、人工や自然の地下構造の形状なども捉えられる。

 これに加えて偏波*1や電波の位相差などを使うと、光学センサーからは得られない情報も得られる。例えば、災害前の観測データと災害後の観測データの位相差を干渉処理すると広域の地形の変化量を一気に計測できる。この手法はInSAR(干渉SAR)といい、地震や火山噴火などの地殻変動を素早く定量的に把握する手段として注目されている。

*1 偏波:振動方向の分布が一様でなく、一定の方向に限られている電磁波。