宇宙ビジネスが進化している。発信した電波の反射を利用する「合成開口レーダー」(SAR:Synthetic Aperture Radar)。悪天候で雲がかかっていても、深夜で日が差さない場所でも地表を観測できる電波の眼だ。技術革新で小型化が進んだSARを活用した新たな人工衛星ビジネスが世界各国で勃興しているのだ。連載第4回では日本の宇宙ベンチャー企業Synspective(シンスペクティブ)の取り組みを紹介する。
レーダーを使って地表を電波で照射し、その反射波から画像を作成する「合成開口レーダー」(SAR)によって得た観測情報と、顧客の持つビッグデータを組み合わせて顧客にソリューションを提供する——。日本の宇宙ベンチャー企業Synspective(シンスペクティブ、東京・江東)は、そんな衛星ビジネスを展開しようとしている。
SARを使う最大のメリットは、電波を使って地表を観測するので雲を透過して地表や海上を観測できる点だ。また、使用する波長によって電波を反射する地点が変化する。
波長の長いLバンド(1G~2GHz)の電波では、電波が地中に浸透してから反射するので、地中の遺跡や地下水の分布などを可視化できる。やや波長の短いSバンド(2~4GHz)やCバンド(4G~8GHz)では、地表面や海氷面で反射するので詳細地形や建造物、車両、船舶や航空機の位置や大きさを調べられる。さらに波長が短いXバンド(8~12GHz)は樹木の葉などでも反射されるので、植生の調査も可能となる。
あるいは、田畑の観測データから栽培作物の生育状況を広域で、かつ継続的に監視できる。光学観測では生育状況に大きく関係する曇天や降雨時のデータが欠けるが、SARなら定期的な欠けのないデータを使って監視できる。
Synspective ジェネラル・マネージャーの今泉友之氏は、SAR衛星でコンステレーションを組む利点について次のように語る。
「SAR衛星の観測は雲の有無に左右されないので取得データの欠落がない。このため安定的・継続的に解析し、連続した情報を抽出できる。特に雲が多く、光学衛星の観測では多くの欠落が発生する東南アジア地域では、SAR衛星の画像に対する需要は大きい」