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 宇宙ビジネスが進化している。発信した電波の反射を利用する「合成開口レーダー」(SAR:Synthetic Aperture Radar)。悪天候で雲がかかっていても、深夜で日が差さない場所でも地表を観測できる電波の眼だ。技術革新で小型化が進んだSARを活用した新たな人工衛星ビジネスが世界各国で勃興しているのだ。連載第7回では第6回に引き続き、日本の宇宙ベンチャー企業QPS研究所(iQPS)の取り組みを紹介する。

 SAR衛星コンステレーションなら、先行者利益を得られるポジションで衛星ビジネスに参入できる——。iQPSは社内で目指すべきビジネスモデルについて検討した結果、この結論に達した。問題はSARの電波を発射し、反射波を受信するアンテナの開発だった。

アンテナを畳んだ状態のSAR衛星「イザナギ」(左)、畳んだパラボラの高さが非常に低いことが分かる。アンテナを展開した状態(右)のイザナギ
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アンテナを畳んだ状態のSAR衛星「イザナギ」(左)、畳んだパラボラの高さが非常に低いことが分かる。アンテナを展開した状態(右)のイザナギ
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アンテナを畳んだ状態のSAR衛星「イザナギ」(左)、畳んだパラボラの高さが非常に低いことが分かる。アンテナを展開した状態(右)のイザナギ
(出所:QPS研究所)

 十分に強力で絞られた電波を発信し、地表面からの反射波を十分な感度で受信するには大型アンテナが必要だ。しかし、どうしたら大型アンテナを100kg級の小型衛星に搭載できるのか。これは技術的に大きな課題だった。

 逆に言えば、そのようなアンテナを開発できれば、SAR衛星コンステレーションに向けて大きく前進できると意味する。そして、iQPSにはこの分野の専門家がいた。八坂氏だ。

 八坂氏は1970年代から1980年代にかけて、当時の日本電信電話公社(1985年に民営化。現在のNTTグループ)で、通信衛星「さくら」シリーズの大型アンテナを研究開発し、リードしてきた経歴を持つ。

 人工衛星はほとんどの場合、打ち上げ時の空気抵抗から本体を守るために衛星フェアリング*1に格納して打ち上げる。大面積の太陽電池パドルやアンテナを装備する場合は、それらを畳んだ状態で打ち上げ、軌道上で展開する。

*1 衛星フェアリング:ロケットの最先端部にある円筒状の“殻”。積み荷である衛星などを、ロケット打ち上げ時の振動や、大気中を飛行する際に生じる摩擦熱から保護する。

 大型のSAR衛星は、平面形状のフェーズドアレイアンテナ*2を使用する。平面の大型アンテナを折り畳んだ状態で打ち上げて、軌道上で展開するのだ。フェーズドアレイアンテナは、アンテナを駆動する電子回路が必要になるので重量制限の厳しい小型の衛星への搭載は難しい、と八坂名誉教授は考えた。「では、パラボラアンテナ*3はSARに使えるだろうか」。

*2 フェーズドアレイアンテナ:Phased Array Antenna。アンテナを固定したまま任意の方向へ、アンテナに流す電流の位相を変えるだけで強さが一定の電波ビームを向けられる、高い指向性を持つアンテナ。
*3 パラボラアンテナ: Parabolic Antenna, Parabola Antenna。放物曲面をした反射器を持つ皿状のアンテナ。