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 発信した電波の反射を利用する電波の眼「合成開口レーダー」(SAR:Synthetic Aperture Radar)を活用した、新たな人工衛星ビジネスを取り上げてきたこの特集。連載最終回は、第11回に引き続き、SAR衛星をはじめとした人工衛星が収集した観測データを無料で閲覧・解析できるサービス「Tellus(テルース)」を紹介する。

 経済産業省が立ち上げた衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」(https://www.tellusxdp.com/ja/)は各種の衛星データを無料で検索・閲覧できるサービスだ。開発者登録をするとデータ閲覧ツールのTellus OSとスクリプト言語のPython(パイソン)などの開発環境が使えるようになり、複数の衛星が取得したデータを加工した情報解析までをクラウドで完結できる。クラウドを使って衛星が取得したデータをマーケットにつなぐインターフェースといえる。

画像は拡大・縮小表示できる。この画像はJR東日本の水道橋駅と東京ドーム周辺を拡大したところ。取得画像は生データでゆがみは補正されていない。(出所:さくらインターネット)
画像は拡大・縮小表示できる。この画像はJR東日本の水道橋駅と東京ドーム周辺を拡大したところ。取得画像は生データでゆがみは補正されていない。(出所:さくらインターネット)
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 経産省との受託契約で、実際のシステム構築と運用を手掛けているのは、ネット接続・クラウド事業者の「さくらインターネット」(大阪市)だ。

 複数衛星が取得したデータを組み合わせた解析を普及させ、ひいては衛星情報利用の市場を成長させるのが、テルースを無料で提供する狙いだ。しかしテルースが複数衛星のデータをそろえるのには、もう1つの意味がある。過去の地球観測衛星が蓄積したデータを、グラウンドトゥルース*1として活用する道を開こうとしているのだ。

*1 グラウンドトゥルース:実際に地表面がどうなっているかという情報。

 地球を観測する衛星は、地形や海氷の形状・分布を調べる狭義の地球観測衛星だけではない。日本の「ひまわり」をはじめとした気象衛星も地球を観測している。その他、科学観測を目的として地球の大気や海洋や陸域を観測している衛星も数多い。

 気象衛星は基本的に赤外線で雲の分布を撮影し、その動きから風向きや風速を計測している。その他、科学観測を目的とする衛星は、地球全体のオゾン層の分布や二酸化炭素の濃度、空気中の微粒子(エアロゾル)の分布、海面における風向風速など、さまざまなデータを計測している。

 それらの気象衛星や科学観測衛星が蓄積してきた地球観測データも原理的には、十分な検証を経ていればグラウンドトゥルースの1つとして利用できる。同じ地球観測衛星のカテゴリーに入る衛星でも、光学観測衛星なら観測に使う光の波長で、SAR衛星なら使用する電波の周波数で見え方が変化する。これらの観測データを組み合わせれば、今までは得られなかった新たな有用データを抽出できる可能性がある。

 しかし、これまで複数の衛星観測データを組み合わせて有用情報を抽出する研究はあまり活発ではなかった。データ配布の手法や配布ルートが衛星ごとに異なり、研究者や事業者が複数衛星の観測データを手元にそろえるのが難しかったからだ。商業的に販売するデータでは価格が高く(画像1枚当たり10万~数十万円)、異なる衛星によるデータを集める費用が掛かりすぎるという事情もあった。

 複数衛星の観測データと、クラウドで情報解析までできる環境を無料で提供するテルースは、複数の衛星観測データを解析してビジネスを展開するためのハードルを一気に下げたと言ってよい。