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 作業の半分はロボットと、管理の半分は遠隔で、全てのプロセスをデジタルに――。鹿島が建築生産の革新を掲げて2018年に公表した「鹿島スマート生産ビジョン」の3本柱だ。同ビジョンを推進する鹿島建築管理本部副本部長の伊藤仁常務執行役員は、「最も難しいのがロボットとの協働作業の部分」と語る。後編では、ビジョン実現の最難関である「ロボットとの協働」に向けた、鹿島の最新の取り組みを紹介する。

 「実際の現場でロボットがどれだけ役に立つのか、正直、最初は半信半疑だった」。2019年9月に竣工したオフィスビル「名古屋伏見Kスクエア」の建設工事で現場所長を務めた鹿島の木村友昭氏は、こう振り返る。

 Kスクエアは、鹿島が18年に公表した「鹿島スマート生産ビジョン」のパイロット現場だ。自社開発ビルであることを生かして計18項目に上る技術やシステムを集中的に導入。現場の意見や要望を踏まえながら、検証を重ねた。

鹿島スマート生産ビジョンのパイロット現場「名古屋伏見Kスクエア」で本格適用した溶接ロボット。柱と梁(はり)の仕口部の下フランジ全585カ所を、ロボットが上向き溶接した。高所作業車を用いた下方からの上向き溶接が可能になったことで、上階では床施工が並行できるメリットもあった。鹿島では現在、大型の鉄骨柱にも対応できる新型の現場溶接ロボットの開発も進めている(写真:鹿島)
鹿島スマート生産ビジョンのパイロット現場「名古屋伏見Kスクエア」で本格適用した溶接ロボット。柱と梁(はり)の仕口部の下フランジ全585カ所を、ロボットが上向き溶接した。高所作業車を用いた下方からの上向き溶接が可能になったことで、上階では床施工が並行できるメリットもあった。鹿島では現在、大型の鉄骨柱にも対応できる新型の現場溶接ロボットの開発も進めている(写真:鹿島)
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 半信半疑だった木村氏が「ロボットは戦力になる」と確信したのは、溶接ロボットの技能の高さを目の当たりにしたのがきっかけだ。Kスクエアでは、柱と梁の仕口部の下フランジ全585カ所を、ロボットが上向き溶接した。高所作業車を用いた下方からの上向き溶接を自動化できたことで、人より安く、高品質に溶接ができた。

 ロボットが担った上向き溶接は高度な技能を要するため、対応できる技能者が極めて少ない。当然、労務費も高くなる。そのため、つり足場を架けて上方から下向き溶接するのが通常だ。

 「実は、万が一に備えて、造船分野などで活躍する技能者に上向き溶接してもらうことも想定していた。だが、ロボットが安定した品質で人の代わりに溶接できることが分かってからは、自動化できる作業が他にもあるのではないかと、意識が変わった実感がある」(木村氏)