清水建設が打ち出す次世代建築生産システム「シミズ・スマート・サイト」の初適用現場が、2019年8月に工事を終えた。本格導入した搬送ロボットは、続く大規模オフィスビルでも搬送作業を完遂。多能工ロボットや溶接ロボットも本施工での現場適用を間近に控える。
工事用エレベーターの扉が閉まらない、マーカーを読まない、高層の作業階に電波が届かない――。搬送ロボットの「失敗リスト」を示しながら、清水建設生産技術本部長を務める印藤正裕常務執行役員は、「こうした検証が、現場でやりたかったことだ」と言い切る。
同社が大手建設会社の先陣を切り、「シミズ・スマート・サイト」の推進を宣言したのは2017年7月。失敗リストは、同生産システムの初適用現場「からくさホテルグランデ新大阪タワー」(大阪市)で記録したものだ。19年8月に竣工した新大阪タワーでは2台の搬送ロボットを本格適用。石こうボード計574パレットの搬送を任せた。当初は71%だった成功率を最終的に92%まで高め、計画通り作業を終えた。
印藤常務はこう続ける。「ラボで完璧な動きをするロボットに仕上げても、現場では必ず想定外のことが起こる。だからこそ、失敗を細かに記録して1つずつ潰し、成功率を上げていくことが重要だった」。
その言葉通り、リストの各行には、原因と対策とともに解決「済」の記載が並ぶ。搬送ロボによる省人化効果は、1日の稼働で約5人。新大阪タワー全体で、揚重人員を半分以下に減らした。

自律移動し複数フロアに資材届ける「垂直搬送」に進化
搬送ロボットに関しては、新大阪タワーでの実績を踏まえ、続く横浜の大規模オフィスの建設現場では搬送対象に空調ダクトや吊りボルトなどを追加。1作業で複数のフロアに資材を間配りする「垂直搬送」に挑戦した。
新大阪タワーでは、搬送対象は石こうボードのみで、2台のロボは1階の荷取り場と搬送先の階でそれぞれ水平搬送を担っていた。より複雑な仕事を与えた横浜の現場でも、失敗を徐々に克服。成功率66%と低い成績でスタートしながらも、最終的には98%とした。
搬送ロボットの「勤務体制」にバリエーション
新大阪タワーでの本格適用を経て、課題も見つかった。人と協働する際の「ロボットのシフト」だ。
新大阪タワーでは、基本的に午後6時から午前2時までの夜間に搬送ロボットを稼働させた。翌日の作業分のボード搬送を、その日の最後にロボットへ指示しておけば、職人は朝から本作業に取りかかれる。ただし、ロボットが資材を運んでいる間には、オペレーターとして1人は必要なので、そのオペレーターはロボットと一緒に夜勤が続くこともあった。
そこで、新たな適用現場である東京都内のオフィスビルでは、搬送ロボットのシフトを夜勤から日勤に変更。現場内に立ち入り禁止区域を設け、人の作業と同じ時間帯にロボットを稼働させている。今後は、「24時間勤務」での現場適用も計画中だ。近隣に住宅街などがないため、ロボットを終日フル稼働させて効果を確認する。
印藤常務は、「搬送ロボットは、社外からも引き合いが来始めた。技術的には、リースなどでの外販ができるレベルに来ている」と手応えを語る。一方、障壁となるのが「現在はスーパーカー程度」とするロボット本体の価格だ。
同社の試算では、5年で減価償却でき、約10年でタイヤやバッテリーなど、メンテナンスの必要が生じる。印藤常務は、「ロボット自体の進化と需要の高まりの両輪で進んでいく面もある。生産台数が増えれば、価格交渉力も出てくる。関連の産業界全体で取り組むべきで、競うのなら相手は世界だ」と、オープンイノベーションの必要性を強調する。
清水建設は需要開拓の面から、まずは人とロボットの協働を促すため、専門工事会社向けに搬送ロボットの講習会を始めた。20年度中には、ロボットオペレーターの資格制度を導入する考えだ。