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 巨人インテルに挑み続けてきたCPUメーカー、米AMDの存在感が増している。2019年から2020年にかけて、主要パソコンのCPUとして返り咲いた。なぜAMDは復活できたのか。AMDの技術面の強みから米インテルの対抗策まで、その理由を解説する。

 AMD復活の立役者は2019年に投入した新設計のCPUアーキテクチャー、「Zen」だ。AMDは2011年に突入したスランプからの脱出に成功する。Zenアーキテクチャーが市場で支持されたのはなぜか。新設計の深層を見ていこう。

 Zenアーキテクチャーの基本的な構成は、4命令/cycleで動作する対称型のデコーダー、そして4命令分の整数演算ユニットと同じく4命令分のベクター演算ユニット、2つのLoad/Storeユニットに対して10命令の同時発行が可能な構成になっている。昔のAMDのアーキテクチャーをご存じの方なら、K7/K8/K10と続いた3命令/cycleのIPC(Instructions Per Cycle)を狙ったアーキテクチャーに、非常によく似た構造になっているのがお分かりかと思う。

Zenアーキテクチャーの基本構成
Zenアーキテクチャーの基本構成
(出所:2016年のHot Chips 28における米AMDの講演資料)
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 ただZenのアーキテクチャーは、基本的な考え方こそ高IPCと高性能/消費電力比を狙ったK7時代とほぼ同じだが、実装そのものは新規に作成されたものである。K10時代からの継承はないと言える。CPUをスクラッチで作り直しても似たものになったのは、AMDの企業文化があるとすれば何かしら影響したのかもしれない。

資金難から生まれた高効率CPU

 ただZenを設計中の2016年時点で、AMDは資金面で極めて厳しい状況にあった。2016年の売り上げは42億7000万ドルほどで、営業損失は3億7200万ドルあまり。それでも手持ち資金(現金および等価物)は12億6000万ドル程度だったので存続の危機とまでは言えないが、米インテルほど潤沢な開発予算や製造予算は取れなかった。それだけが理由というわけではないものの、AMDはZen開発に際して最小の設計コストと製造コストで最大の効果を得られるような方策を取る。

 その代表例が、まずサーバー向けとなるダイを開発し、PC向けには不要な機能を省いて展開する方策だ。

 そもそもAMDの悲願は、2006年にサーバー向けCPUの「Opteron」を主力に3割近くまで達したサーバー市場への返り咲きだ。一般にサーバー向けCPUはデスクトップ向けのそれより利幅が大きい。出荷数量が少なくてもAMDにとって十分な利益を得られる。

 2018年のインテルにおけるCCG(Client Computing Group)の売り上げは370億ドル、営業利益は142億ドルで、利益率は38%ほど。対してDCG(Data Center Group)は売り上げ230億ドル、営業利益115億ドルで利益率は50%に達する。同じ個数のプロセッサーを売るなら、PC向けよりサーバー向けのほうがずっともうかる、という話である。

 実はこの発想も、かつてのK7~K10と同じである。したがって実装もこれに準ずるものになった。

 PC向けとサーバー向けで異なるダイを作るのは設計コスト的に厳しい。財務状況が良好なインテルはこれをやっている。

 サーバー向けとなるダイを開発し、PC向けCPUには不要な機能(セキュリティー拡張や信頼性に関わるRAS機能など)を無効化する形で提供する。そしてサーバー向けCPUには、同じダイを4つ、MCM(Multi-Chip Module)の形で提供する。この手法で、同じダイを使いながらPC向けとサーバー向けに用途に適した製品を、より低コストで提供できるわけである。

AMDによれば、32コアの製品を1つのダイで構築するよりも、4割ほど製造コストを下げられるとする
AMDによれば、32コアの製品を1つのダイで構築するよりも、4割ほど製造コストを下げられるとする
(出所:2017年のHot Chips 29における米AMDの講演資料)
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