指定確認検査機関の信頼が揺らいでいる。建築確認制度を改めて考える材料として、日経アーキテクチュアが2011年に掲載した記事を振り返る。
今や建築確認や検査の担い手の中心となった指定確認検査機関(以下、検査機関)には、不良ストックを防ぐ役割が期待されている。だが、一部の検査機関の業務体制や営業姿勢は、信頼を揺るがしかねない側面を持つ。改善が求められる。
ここに、1枚の業務依頼文がある。「構造図書審査ご依頼について」と書かれている。ある検査機関が、民間の設計事務所のスタッフに宛てた書面だ。書面には、具体的なプロジェクト名や設計者名などが記載されている。
文書の下段には、返却希望日が大きな文字で記載されている。その横には「審査・整合のみお願いします。●●(同社の事業所)から質疑のFAXと指摘対応を行いたいと思います」という注釈がある。文字通りに読み取れば、審査の一部を外部の設計事務所に依頼していることになる。
さらに下の方には、事前審査を意味すると思われる「事前受付」との記載がある。事前審査は本審査をスピードアップするために実施するものだ。実質的には、本審査と同等に扱われることが多い。
たとえ一部であっても、確認審査を外部の設計者に発注すれば、2つの問題が懸念される。一つは制限業種への抵触だ。通常、確認検査員は指定確認検査機関指定準則に基づき、設計やコンサルタント業務に従事することが禁じられている。設計事務所で働きながら確認検査員として審査を引き受ければ、この規定に抵触する。
もう一つは守秘義務違反だ。確認申請の書類には個人情報なども含まれている。そのため、検査機関の職員に対しては、建築基準法77条の25において、秘密保持が義務付けられている。
[建築基準法]
第77条の25(秘密保持義務等)
指定確認検査機関(その者が法人である場合にあっては、その役員。次項において同じ)およびその職員(確認検査員を含む。次項において同じ)並びにこれらの者であった者は、確認検査の業務に関して知り得た秘密を漏らし、または盗用してはならない
[指定確認検査機関指定準則]
第1(用語の定義)
- 十一 制限業種 次に掲げる業種(建築主事が確認検査を行うこととなる国、都道府県または建築主事を置く市町村の建築物に係るものおよび建築主事を置かない市町村の建築物に係る工事監理業を除く)をいう
- イ 設計・工事監理業(工事請負契約事務、工事の指導監督、手続きの代理等の業務およびコンサルタント業務を含む。ただし、建築物に関する調査、鑑定業務は除く)
第3(確認検査の業務の体制、方法等について)
- 指定確認検査機関(以下「機関」という)および機関の確認検査員等は、次に適合しなければならないものとする
- 二 機関は、機関の職員以外のものを確認検査の業務に従事させてはならない
第6(指定確認検査機関の役職員等の構成について)
- 法第77条の20第五号に規定する基準に関し、機関の役職員等の構成は次に掲げるものとする
- 十 機関の代表者、担当役員および確認検査員が、制限業種に従事する者または制限業種を営む法人に所属する者でないこと
日経アーキテクチュアはこの文章の発信先として記載された検査機関の社長に書類の真偽を確かめてみた。