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「デザインマネジメント」を提唱するデザイナーの田子學氏が、各界の有識者や挑戦者を迎え、デザインの持つ力について語っていく本シリーズ。

第4回のゲストである松坂浩志は、半導体加工メーカー塩山製作所の社長でありながらワイナリーに参入した人物。田子氏は、そのワイナリーブランド「MGVs(マグヴィス)」の構築に全面的に関わってきた。今回は、MGVsが最も重視している「テロワール」について語った。(日経クロステック編集)

塩山製作所がワイナリーに参入した経緯については下記記事を参照
世界が注目する日本ワインに半導体加工メーカーが参入

田子 MGVsはもともと、その土地を生かす「テロワール」というコンセプトが礎にあって、松坂さんもワインづくりの前に土地をどう生かすかということを考えていらっしゃった。なので、MGVsには実際にぶどうを育てる畑と別に実験用の畑もあります。

松坂浩志氏
松坂浩志氏
(写真:加藤 康)
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松坂 テロワールが何かを説明するのは非常に難しいんですけども、私なりに解釈すると、テロワールとは地域性というか、そこにしかない唯一無二のものなんですね。ただし、土地だけではなくて、そこに人が関わらないとテロワールにはならないと思うんです。必ずその場所と人が関わって、それをどう表現するかということなんです。

 簡単にいえば、その土地や地域の個性なんだと思います。その個性をどう見つけ出していくか。それがテロワールかなと。

 欧州では、それがワイナリーに限らず、農業全般で意識されていたんです。特にフランスやイタリアは、すごく意識していると思います。欧州では、やっぱり英国がビジネスに長けています。英国はフランスなどから仕入れたものを世界中に売っている。じゃあフランスはというと、地域性を強く押し出していくしかなかった。それがすごい競争力を持つということに、後から気づいたんだと思います。単に農業をするのではなくて、ブランド化してきたのがテロワールなんです。

 日本だって、どこで作ってもお米はお米なんだけど、やっぱり新潟のお米となると価値が変わってきますよね。お米も、これまでは地域単位ぐらいで一律に扱っていましたけど、誰がどこで作ってどういう個性が出ているのかというのを明確に意識するのがテロワールになるんじゃないかな。

 もちろん、お米にもブランドという意味では魚沼産コシヒカリなんかがあるけど、もっと徹底するのがテロワールなんだと思います。例えば、イベリコ豚の中でもドングリだけ食べて育ったのは格が高いとか。そういうふうにブランド化していくのもテロワールです。

 単に長所を生かすだけではなく、短所を長所に変えてきたという面もあるんです。例えば、「シャンパーニュ」というのはフランスのシャンパーニュ地方のスパークリングワインですが、シャンパーニュ地方は寒くてぶどうが色付かないから、白ぶどうをうまくブランド化してきたわけです。ブルゴーニュ地方の白ワイン「シャブリ」もそうですね。寒い地域では、白ぶどうのシャルドネを作ってもあまり濃厚に完熟しないので、酸が残る。そうすると、その酸をどう生かすかを考えます。シャブリには牡蠣が合うといわれますが、これは酸味が強いからです。そういうのが非常に面白い。

田子學氏
田子學氏
(写真:加藤 康)
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田子 最近は、MGVsがある山梨県勝沼地方全体でテロワールと言い出すようになりました。これからは日本ワインもテロワールが価値につながりますということなんです。

 一口に勝沼地域でつくったワインといっても、ワイナリーごとに飲み比べると味が違うということに気づいたんです。だから、どの農家のどの畑で採れたのかというのをきちんとタグ付けしましょうということです。やっぱりローカルに徹することで、グローバルで勝負できる。

 松坂さんはもともと半導体事業を手がけていて、グローバルで勝負していたからこそ、分野は違えどワインでも地域性の生む価値が見えていたんだろうなと思います。

松坂 そうですね。最近、「テロワールがあるというのは、つまりワインがおいしいということなんですか」と聞かれるんですが、必ずしもそうではないんです。おいしいかどうかではなく、個性があるかどうかということなんです。人の個性もそうですが、この個性は良いとか良くないとか、そういうことではない。個性をもっと際立たせることで、個性を生かせるということです。

 MGVsでは、ぶどうが採れた畑や仕込みの種類によって商品名に番号を付けています。やっぱりつくり手は知識がないと作れませんが、飲む人たちが知識を持ち合わせていないと、どう評価すれば良いか分かりにくいというのが現状だと思います。そうだとしたら、評価しやすくする入り口を設けてあげるというのは大事なことだと思っています。番号を振るというのは非常に分かりやすいので、自分たちで首を絞めているところもあるんですが、それを守ることによってお客さんがワインをトレースできるようになる。「こういうつくり方があるんだ」「こういう味になるんだ」ということが分かりやすくなると、新しい商品名に対して「これはどの畑で採れたぶどうなのか」「どうやってつくったのか」とか、楽しむための手がかりになります。

 どうしても日本の消費者はワインに限らずどのお酒でもそうだけど、飲むのはみんな好きだけど、語るということはあまりないんですよね。ビールなどは特にそうだと思います。