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規格化よりも市場を作ったほうが早い

田子 電源メーカーがそこまで提供するというのは、最終製品のメーカーからすれば、その開発費は不要になるわけです。しかも、僕らはアプリケーション側のデザインはしません。自由度を高くしておいて、最終製品メーカーがやりたいことを、とことんやってくださいというスタンスです。新幹線みたいな高信頼性が求められる電源のメーカーがそこまで用意するから、みなさんどうぞ使ってくださいというのは結構新しいと思っています。

ワイヤレス給電システム「POWER SPOT(パワースポット)」(出所:エムテド、ベルニクス)
ワイヤレス給電システム「POWER SPOT(パワースポット)」(出所:エムテド、ベルニクス)
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鈴木 パワースポットは、特に決まった形式があるわけではありません。いろいろな要求があるので、まさにマーケットそのものをデザインしていきます。ハードウエアだけではなくて、ソフトウエアもです。今までIoTというと、ソフトウエアありきで語られてきましたが、人の暮らしにはハードウエアが欠かせないので、ハードウエア抜きでライフスタイルを提案するというのもあり得ません。これからは、ハードウエアにどう電源を供給するとか、どう利便性を高まるとか、そういうのをパートナーと考えていきます。

田子 もともとベルニクスには電源を作る技術やノウハウはたくさんあるわけです。けど、そこにこだわらずに、もっといろいろなものを組み合わせていけば、ソリューションとして提案できるようになるでしょう。そういうのを新設のベルデザインでやっていきましょうということです。

鈴木 技術の進化に関しては、大学やパートナー企業とそれぞれ共同で研究開発をしています。大容量化とか給電方式とか、さまざまな技術の開発に取り組んでいます。やっぱり、もっとパワーを出したいとか、もっと小型化したいとか、さまざまなニーズがあるんです。こういった技術を、いかにソリューションに落とし込んでいくかが勝負だと思います。

 例えば、今依頼を受けている用途の一つに、農地への電源供給というのがあります。農地でも、IoTなどで電源を使いたいというニーズはあります。水や泥などにまみれる農地はまさにワイヤレスの出番です。

 規格化できればそれに越したことはないですが、規格化によってスピードが遅くなる恐れがあります。規格化するよりは、アプリケーションの市場をさっさと作ってしまった方が、外部の方々も乗ってきやすいだろうなと思います。

 よく社内ではラピッドプロトタイピングといっているんですが、グズグズやっていても時代がもっと速く動いてしまうんで、それよりもアイデアをすぐに形にして、マーケットに入れて、そこで揉まれて、また発展していくというサイクルの方が良いと思っています。

 そこは日本企業の弱いところで、やっぱり「信頼性を確保できるまで」とか「マーケットが見えてくるまで」とか言って、技術やアイデアを温存してしまっているところがあります。それに対して、米国や中国には、それこそアイデアを形にして世の中に出していく人がたくさんいます。日本流で、社内でじっくり考えるとか、取締役全員の許可を得るとかやっていたら、とてもじゃないけど海外との競争に勝てません。

鈴木健一郎(すずき・けんいちろう)
ベルニクス 代表取締役社長、ベルデザイン 代表取締役CEO
鈴木健一郎(すずき・けんいちろう) 日本大学生産工学電気電子工学科卒。トーメンエレクトロニクス(現ネクスティエレクトロニクス)にて半導体ビジネスに従事。1999年ベルニクス入社。ビジネス戦略室室長、常務取締役を経て、2016年代表取締役社長に就任。2019年ベルデザインを社内ベンチャーとして起業。(写真:加藤 康)
田子學(たご・まなぶ)
エムテド代表取締役 アートディレクター/デザイナー、慶応義塾大学大学院 特別招聘教授。
田子學(たご・まなぶ) 東芝デザインセンター、リアル・フリートを経て、エムテドを起業。GOOD DESIGN AWARD、Red Dot Design Award、iF Design Award、International Design Excellence Awardsなど世界のデザイン賞受賞作品多数。著書に『デザインマネジメント』『突き抜けるデザインマネジメント』(いずれも日経BP)など。(写真:加藤 康)