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 青天のへきれきとは、このことを言うのだろう。1977年に東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)に入社し、3カ月の集合研修を終えた私を待っていたのは、なんとIT部門への配属命令だった。大学では政治学を専攻していた。当時の政治学科にはコンピューターのコの字もなく、これは全くの想定外だった。

 IT部門に配属されてからは同期の11人の仲間と共にプログラミングから学んだが、私は全くの落第生。入社早々、会社を辞めたくなったものだ。しかし人生は不思議なもので、次第に面白くなってきて、その後、東京海上で38年、日本取引所グループで2年、そしてITコーディネータ協会で3年、合わせて43年間にわたりITを天職として仕事を続けてこられた。今では心から感謝している。

 43年間もこの分野で仕事を続けてこられたエネルギーは、実はITが直感的に分からないところから来ていると思う。新しいコピー機の前に立って難なく操作できる人たちがいるが、私は全く駄目。周りの人に丁寧に教えてもらっても、なかなかスムーズに操作できない不器用組である。だからこそ、目に見えないITという怪物を何とか自分のものにしたい、会社の力になれるようにしたいとエネルギーを燃やし続けることができた。

 このコラムでは不器用ITオヤジの観点から、ITオンチを自称する経営者に、ITを経営の力として生かすコツを伝えられればと思う。IT部門のマネジャーや若い技術者にも、経営者目線でITをビジネスに生かす勘所を理解してもらえればありがたい。

 まず強調したいのは、「ITツールを使いこなす」ことと「ITを経営の力として生かす」ことは全く違うという点だ。ITを経営の力として生かして生産性を上げたり、働き方改革に取り組んだり、ビジネスモデルを変革したりするのは、ITツールを使いこなすことの延長線上にはない。

 世の中には「経営者研修」と称して、まずは簡単なITツールを使えるようにするところから始める取り組みがあるが、それでは無駄だと思う。経営者自身がITツールを使いこなす必要はないのだ。

 だからと言って、ITを生かすことから経営者は逃げてはいけない。東京海上ホールディングス(東京海上日動火災保険の持ち株会社)時代に、システム開発がうまくいかない海外のグループ会社の手助けをする機会が何度もあった。その際、グループ会社の社長たちの反応は面白いほど同じだった。

 彼らは次のように言う。「ITは重要だ。今どきITを生かさない経営などあり得ない」。そこまではよい。だがその後、隣に座っているIT部長のほうを向いて「俺はITがよく分からないから、後はお前が頑張れよ」と言う。社員は常にトップの背中を見ているので、社長がこういう態度だと、「社長はITが重要と言っているけれど、上辺だけだな」とすぐに見抜いてしまう。