当初、「ITの世界でまた新しい商品か何かが出た」かのように受け取られたDX(デジタルトランスフォーメーション)ではあるが、最近では、どうやらそういうことではなく「D」(デジタル技術)よりも「T」(トランスフォーメーション;変革)のほうが大事との認識が広まってきている。このことを歓迎したい。
ITの世界では「3年に一度くらいの頻度で新しいタームが出ては消える」と言われ続けてきた。世界初の汎用コンピューターと言われるENIACが1946年に誕生してから76年がたった。そして、ITが経営に生かすべき不可欠なツールと広く認知されるようになったのは2000年ごろで、そこからだとわずか20年である。そのような「若い」分野であるがゆえに、新たなコンセプトが生まれ日々変化するのも、やむを得ないことだったかもしれない。
「DXではデジタル技術よりも変革が大事」と広く語られるようになったのは、ようやく経営者がITやデジタル技術に真正面から向き合うようになったことの表れと言えるだろう。つまり、経営戦略の中でどう生かすのかを真摯に考える、そんな対象としてITやデジタル技術を捉えるようになったわけだ。
「半導体の集積率(=CPUの能力)は約2年で2倍になる」、インテルの創業者の一人であるゴードン・ムーアが唱えたこの法則は、最近少し陰りが見えるとの説もあるが、いまだに成り立つと言われている。このすさまじい発展の結果、今や私たちが普通に使っているスマートフォンは、1970年代のスーパーコンピューターと比較して大きさで1万分の1、価格で1000分の1、性能では逆に100万倍である。
これだけのパワーを経営にどう生かすかを考えることは、今や経営者にとって避けては通れない道だろう。ITリテラシーうんぬんの問題ではなく、経営の問題そのものになってきているのだ。
そういう流れの中で出てきたのがDXである。経済産業省の「DX推進指標とそのガイダンス」では、「DXは、本来、データやデジタル技術を使って、顧客視点で新たな価値を創出していくことである。そのために、ビジネスモデルや企業文化などの変革が求められる」と定義されている。そこに書かれている通り、DXの本質は「顧客視点で新たな価値を創出すること」である。よく分からない技術の話ではなく、経営者が最も重きを置くべき経営の本質そのものではないか。
「パーパス」からいきなりDX戦略は描けない
「顧客視点で新たな価値を創出する」ために、まずやるべきことは何か。それは「自信をもってお客様に提供できる我が社の価値は何か」を深く考え、その価値を最もよく受け取ってもらえる「お客様は誰なのか」を改めて考えることだろう。そして、様々な環境変化の中で、その「価値と顧客」がどう変化していくか、どう変化させていかなくてはいけないのかを見極めることが次に求められる。